衝撃の映像だ。道路を歩いていた2歳の女の子が車にひき逃げされた。道端に倒れた脇を、素知らぬ顔で通り過ぎる若い男、親子連れ、自転車、バイク…。7分間に18人が見て見ぬふり。どころか、もう1台の車が足を引いていた。
助けると濡れ衣着せられ損する
中国広東省で防犯カメラがとらえた映像だ。女の子は意識不明の重体で、2台の車の運転手は逮捕された。
司会のみのもんたは「エーッ! 2台目の車はどこを見てたんだッ」
解説する井上貴博アナは「人だとは思わなかったと言っているそうです」
この映像がネットで伝えられると、さすがに大騒ぎになったという。こうした話はこれだけではなかったからだ。今年9月(2011年)に浙江省の交差点で、バイクが高齢者をはねた。バイクの男が介抱してる脇を素知らぬ顔で通り過ぎる人、車…。やがてバイクもお年寄りを放置したまま走り去った。
重慶の町中で老人が倒れている写真もある。周りに人は立っているが、だれも助けようとしない。自転車で倒れた80代の老人が言った。「誰もぶつかっていない。私が自分で倒れた。だから助けて下さい」
なぜこんなことを言ったか。背景があった。9月に江蘇省で、倒れた高齢者に気づいたバスの運転手がバスを止めて助け起こした。運転手はバスの運行があるので地元民に後を託したら、老人は「運転手に突き倒された」と騒ぎだし警察沙汰になった。この時はバスの監視カメラが事実を証明した。
もっとひどいのが、昨年9月に天津市で起きたケース。倒れた老人を見つけたドライバーが病院まで連れて行った。ところが、老人は「彼がケガをさせた」とドライバーに損害賠償を求めたのだ。これはいま裁判になっているという。先の老人のひとことには、こうした事情があったわけだ。
共産党も「誠意の欠落、道徳の低下が深刻」
みの「悲しいね」
2歳の女児のケースでは、ネットに「中国経済は発展したが、道徳観は喪失した」「両親には監督責任があるが、18人の通行人にはない」と両方の意見が出ているそうだ。
中国に詳しいジャーナリスト富坂聰さんは、「困窮と競争激化で心に余裕がなくなり、ややこしいことにはかかわりたくないということ」という。井上は中国の大学での調査結果を紹介した。「老人が倒れたとき、手を貸すべきか」との問いに、「貸すべき」64・8%、「何ともいえない」26・9%、「貸すべきでない」が8%もあった。「巻き込まれるのが怖い」のだと井上はいう。
先の中国共産党中央委員会総会でも、道徳問題は重要なテーマになっていた。温家宝首相も「誠意の欠落、道徳の低下が深刻なところまできている」といっている。かつて中国の人たちは自らも貧しい中で、「敵」である日本人の子どもたちを預かった。それが残留孤児だ。あの優しさは、どこへ行った?