<ツレがうつになりまして。>ドラマ化もされた大ヒットコミックエッセイの映画化だ。暗くなりがちなうつ病というテーマを扱いながら、時にユーモアを交えてほのぼのとした夫婦愛を描いた秀作。NHK大河ドラマ「篤姫」でも夫婦役で共演した宮崎あおい、堺雅人の息の合った演技は、理想の夫婦像を見事に描いた。
「会社辞めないのなら離婚する」
売れない漫画家の晴子(宮崎あおい)は、働き者の夫・幹夫(堺雅人)に支えられながら幸せな生活を送っていた。晴子は幹夫のことを「ツレ」と呼ぶ。
ある日の朝、小さな包丁を持った幹夫が「死にたい」と言ってきた。幹夫は仕事のストレスが原因でうつ病になってしまったのである。責任感が強い幹夫は、うつ病と診断された後も会社に行き続ける。日に日にヤツれていくツレを見ていられなくなった晴子は、「会社辞めないのなら離婚する」と言い放つ。
幹夫は会社を辞め、闘病生活に入ったが、何から何までしっかり者の幹夫に支えられっぱなしの生活を送ってきた晴子にとって、うつ病になった夫を支えるのは容易なことではなかった。
この映画のキャッチーなタイトルは、漫画家の晴子が仕事をもらいに編集部に出かけたときに、自然と出てくる言葉である。
「ツレがうつになりまして。仕事を下さい」
原作者の細川貂々が実際に口にしていた言葉でもあり、ツレを支えたいという彼女の必死な思いを的確に表した良いタイトルだと思う。
「昼寝の仕方教えてあげる」
ツレのうつ病をきっかけに、晴子とツレの関係が逆転するのがおもしろい。律儀なツレは会社を辞めても休み方が分からない。「昼寝でもすれば」という晴子の提案に、「世間様に申し訳ない」と拒むツレ。見かねた晴子が昼寝の仕方を教える。何とも奇妙なエピソードだけれど、リアリティーを感じさせるシーンだ。曜日別にどのネクタイをするか、どのチーズをお弁当に入れるかまで決めているツレの几帳面さを、前半でていねいに描いているからだろう。もちろん原作にも描かれている実体験ということも大きい。
逆に、原作には描かれていない部分が浮いてしまった。たとえば、晴子の母親と父親のエピソードなどは無理にハートウォーミングな展開にもっていっている印象を受ける。
そもそも晴子とツレの仲は良いのだが、それ囲む人たちはとくに意味を持たされず、話の展開のための使い捨てにされてしまっているのも気になった。晴子とツレの間に入ってくるような人物を設定すれば後半のダルさは解消できたはずだ。エッセイであれば終始2人だけの話で良い。しかし、映画では話を引っ張る第三の人物が必要である。
とはいえ、見ているこちらを幸せにさせてくれるような夫婦像は見事に描かれている。宮崎あおいと堺雅人の演技を見ていると、2人の夫婦役をまた別の作品でも見たくなる。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆