葬式の段取りつけて逝った几帳面サラリーマン…けれんないセルフドキュメンタリー

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(C)2011「エンディングノート」製作委員会
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   <エンディングノート>『歩いても歩いても』『奇跡』などの是枝裕和監督に師事した砂田麻美の初監督作品。末期ガンと宣告を受け、69歳で亡くなった監督本人の父親を主人公に、生と死、家族のありかたを見つめるセルフドキュメンタリー。製作・プロデューサーは是枝裕和。

   熱血営業マンとして40年以上働き続け、67歳で退職した砂田知昭は、第二の人生を歩み始めた矢先に末期ガンと宣告される。大きなショックを受けるが、何事も「段取り命」でサラリーマン人生を送ってきた彼は、今度は自分の葬儀も自分で段取りを付けようとする。人生のしめくくりとして、「エンディングノート」に書いた「to do(すること)」リストに従って、人生最後のプロジェクトを次々と成し遂げていく。

重いテーマを楽しく仕立てた砂田麻美監督のたしかな技量

   是枝監督が「若手の作り手に相談されたら『やめておいたほうがいいよ』と答えるようにしてきた」というほど、身内を被写体とするセルフドキュメンタリーというジャンルは難しいらしい。たしかに、作り手の感情や意図が見えすぎて、観客を冷めさせるおそれがあるし、下手をすればホームビデオの延長のような作品になりかねないことは、素人でも想像がつく。しかし、この映画は従来のセルフドキュメンタリーのイメージを覆す素晴らしい出来栄えとなっている。

   その理由としてまず挙げられるのは、砂田監督の徹底した客観的目線。自らカメラを回し、時には父親に質問もするが、そこには必要以上の感情が込められていない。おかげで、スクリーンに映る砂田知昭は、最後までどこにでもいる普通のおじさんであり続け、観ているほうは違和感なく感情移入することができる。

家族ラブのおじさん主人公がとにかく素晴らしい

   また、「近親者の死」という重いテーマながら暗くない。いや、むしろ明るい。ユーモアのきいた小気味よいナレーション、軽快な音楽とリズミカルな場面展開もあいまって、ここまで観やすく、しかも楽しい作品に仕上がっているのは驚きである。ここでも監督のバランス感覚の良さが光る。

   とにかく主人公の砂田知昭のキャラクターがなんといっても素晴らしい。特技は「段取り」と「空気を読む事」という彼は、親戚の中に必ず一人はいそうな『家族ラブ』なおじさん。自分の始末は自分でつけないと気がすまないという几帳面な男だが、決して頑固者というわけではなく、どんなに病状が悪化しても家族のことを思いやり、孫が顔を見せると途端に元気になる姿がほほえましい。説得力という点では、どんなに演技の長けた役者でも彼にかなう者はいまい。ラストは思わず涙を誘うのでハンカチは必須。観ておいて絶対に損はない今年有数の作品だ。

バード

おススメ度:☆☆☆☆☆

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