福島第1原発から20~30キロ圏内にある「緊急時避難準備区域」がきょう30日(2011年9月)にも解除される。しかし、放射性物質の除染は終わっておらず、安全・安心して住める状態ではない。なのになぜ解除なのか。
解除となるのは、福島県の南相馬市の一部、田村市、楢葉町、広野町、川内村の5市町村で、のべ5万8500人が対象。リポーターの清水貴之が南相馬市原町区を訪れた。
居住地区、商店街手付かず。病院も外来だけ
現在、除染が行われているのは学校中心で、それも道半ばだ。市民が住む周辺はまったくの手つかず。シャッターを下ろしたままの店が目立つ商店街はときおり車が通るだけで、人通りはほとんどない。病院は医師、看護師不足で、受け付けているのは外来患者だけ。学校は除染が済んだ5校程度が10月上旬から再開されるという。市民は「まだ完全に安全ではない。今後、いつまでにこうしますという確約がないと不安ですね」と訴える。
ではなぜ解除を決めたのか。政府は8月に「住民の生活環境の復旧のメドがついた時点で見直す」としていたが、いったいどう具体的に見直したのかが分からない。
この安全が確保されていない状態のなかで、ふる里で子どもを産みたいと避難先からUターンしてきた妊婦の一人に女の子が生まれた。3614グラムの元気な赤ちゃんだ。取り上げたのは、5つあった産婦人科病院のうち、ただ一人留まって妊婦たちを見ている原町中央産婦人科病院の高橋亨平院長で、「また一人元気な子が生まれてよかった」とほほ笑む。
しかし、高橋自身に5月にがんが見つかった。肺や肝臓にまで転移している状態にもかかわらず、「病気のことを考えている暇は1分1秒もない」と強がりながら、仲間と一緒に生まれてくる赤ちゃんのために、時間を割いては保育所の除染まで行っている。
国や自治体「避難生活強いる責任」逃げたい
スタジオでは、作家の吉永みち子がこう話す。
「普通の状態でも、子どもを産むっていうことは不安がありますよね。避難しても不安、とどまっても不安が消えるわけでない。本当に安心して子どもを産める国なのかということですね。
安心して暮らせる状態が整っているとはとてもいえないのに、解除するのは責任を逃れるための措置と考えられなくもない」
長嶋一茂(スポーツ評論家)は「まだ放射能のリスクが排除されていないのに解除といわれては、それでも帰りたい人は勝手に帰ればいいと捉えてしまう」と怒った。
解除を決めた具体的な理由について、国は自治体の責任者のきちっとした意見が聞きたいところだが、残念ながらなかった。