<女と銃と荒野の麺屋>中国・嘉峪関(かよくかん)の荒野にひっそりと立つ一軒の中華麺屋。店主のワン(ニー・ダーホン)と妻(ヤン・ニー)、従業員の青年リー(シャオ・シェンヤン)とジャオ(チェン・イェ)、チェン(マオ・マオ)の5人で営まれている。妻はリーと不倫をしていた。ある日、妻が行商人から銃を買う。ここから物語は大きく動き出す。
彼女が銃を買った動機が解からないリーは、もともと臆病な性格ということもあり、神経をすり減らす。ワンから賄賂を受け取っている警察官のチャン(スン・ホンレイ)が、妻の不倫と銃の所持をワンに知らせる。妻にも従業員にも裏切られたワンは怒り狂い、チャンに高い報酬と引き換えに2人の殺害を依頼する。が、事態は予想しなかった方向に展開していく。
裏切られ感が痛快な「ブラッド・シンプル」リメイク
中国映画界の重鎮チャン・イーモウがコーエン兄弟監督の大傑作サスペンス『ブラッド・シンプル』をリメイクした。しかし、リメイク作品という先入観は冒頭の数分で打ち消される。だだっ広い大地はオレンジ色で、麺屋の従業員たちはアバンギャルドな衣装を纏っている。とにかく、映像の奇天烈な色彩感覚に驚く。まるでミュージカルの舞台のようだが、華々しさというよりも、どちらかというとシュールな世界というべきだろう。
この不思議な感覚もチャン・イーモウの狙いなのだうが、何を狙っているのだろうか。監督は「ズレ」を作り、「別世界」を意図して創り上げているのは確かだ。その「ズレ」が生むのは、コーエン兄弟のお株を奪う「ブラックな笑い」であり、緻密な脚本によるスリリングなサスペンスを軸としたコメディとしての推進力だ。
チャン・イーモウ監督は『初恋の来た道』『あの娘を探して』『至福のとき』など、中国に生きる庶民を情感溢れる演出で撮った作品がピークであったと筆者は思う。ただ、この映画はリメイク作品とはいえ、なんとも強引で、快活で、奇天烈な力技でオリジナル色を打ち出したチャン・イーモウが持つ「力強さ」に唸らされる。この裏切られ方は、『ブラッド・シンプル』のファンにもおすすめ。(シネマライズほかにて公開中。配給:ロングライド)
川端龍介
おススメ度☆☆☆☆