小型木造船で日本海の荒波を命からが渡ってきた9人の脱北者。背景には首都・平壌と地方との途方もない格差があるという。9人は地方都市から脱出してきたと見られている。
野菜配給3分の1なのに空前のサッカーブーム
コリア・レポートの辺真一編集長は次のように語った。
「(今回の脱北者は)地方ではとても住めないという経済的事情が背景にあります。誰もが平壌で暮らすことを希望しているのも、平壌と地方との貧富の格差、生活レベルの格差は比較できないほど大きいからです」
地方都市の困窮状態はひた隠しにされているため分からない。命からがら脱出する脱北者の存在で推測するしかない。
北朝鮮のショーウインドウとなっている平壌市内の映像が流れた。母親が平壌市内で暮らす息子に会いに8月17日(2011年)から25日まで訪れた際に、自ら撮影したものだ。母親は80歳になった寺越友枝。息子は48年前に日本海で出漁中に行方不明となり、その後、生存していることが分かった寺越武志(61)だ。
友枝によると、訪れた時は長雨で涼しかったが、野菜のできが悪く、配給の野菜は通常の3分の1に減っていたという。後継者の金正恩がサッカー好きなことから、市内は空前のサッカーブームで、小学校の校庭で女児がサッカーに興じている姿も撮影されていた。
主席銅像の前に10万世帯の団地建設
故・金日成主席の銅像が立つ広場の真向かいに、10万世帯が入居できる団地が建設中で、その映像もあった。来年4月の「金主席生誕100年プロジェクト」として進められており、大学生が授業を休んで動員されて昼夜2交代の24時間態勢で建設に従事しているという。
辺は「平壌で暮らすことは別格扱なんですよ。今後、格差が広がると脱北者は増えるのではないですか」という。
コメンテーターの吉永みち子(作家)「国の威信のために平壌に富が集中しているわけだから、当然しわ寄せがきている部分がたくさんあると思う」
スポーツキャスターの長嶋一茂は「国民の怒りがどこへ向けられているのか逆に不思議ですね」という。子どもを含む9人の脱北者は、異常な独裁国家がすぐ隣に存在することをあらためて認識させてくれた。