「私は朝鮮人民軍所属で、われわれ9人は家族と親戚だ。助けてほしい」
石川県能登半島沖で見つかった不審船に乗っていた責任者を名乗る男性はこう語ったという。
厚遇されているはずの軍人家族でさえ脱北かと奇異に感じたが、北朝鮮問題に詳しい関西大学の李英和教授は「軍人ですら深刻な食糧難の影響を受けている。今年から来年にかけて北朝鮮は何が起きても不思議でない状況になっている」という。
「3代世襲」で食糧掠め取り取り締まり強化
能登半島沖で古い小型木造船が見つかったのは13日(2011年9月)午前7時30分ごろ。海上保安庁が調べたところ、エンジン付きの木造船には、男性3人、女性3人、10歳前後の子ども3人の計9人が乗っていた。
船内にはコメと漬物、水が入っていたと思われる空のタンクのほか、残り60リットルしかないガソリン燃料のタンクだけだった。
司会の赤江珠緒が「人民軍の兵士を名乗っているそうですが」と、李教授に解説を求めた。
「軍人は2~3年前までは食料援助をかすめ取るとかして、食べるのに困らなかったが、1、2年前から兵士のなかで栄養失調や脱北する人が増えてきた。今年は台風の影響で相当な食糧難に陥っている。
とくに来年は、天災というより人災でもっと厳しくなる。『3代世襲』が本格的に始まり、国内の治安強化でグッと締め付けが厳しくなるという暗い予測がエリート層にまん延しており、逃げるなら今のうちだという意識が広まっている」
拉致問題交渉再開のカードに使え
なぜ小型木造船で波の荒い日本海を脱北ルートに選んだのか。
李「中朝国境は大変な警備状況で、とくに朝鮮半島の西側は厳戒態勢。それに比べて日本海側はちょっと甘い。行こうとしてもほとんど失敗し、海の藻屑と消えてしまうと見ていて、チェックが緩いのでそこを衝いたのかも。
個人の所有が認められていない船を入手するのが一番難しい。計画的でお金もかかったはず。おそらく1年分の収入を全部注ぎ込んで手に入れたのでしょう」
東ちづる(女優)が「日本が保護したことで北朝鮮はどう捉えるのでしょう。それに対し拉致問題を抱える日本政府はどのように対応すればいいのでしょうね」と聞いた。
李「亡命ではなく、漂流したのだと召還を要求してくることは間違いない。召還に応じなければ『自国民を拉致した』と言いがかりをつけてくるでしょう。
拉致問題を含め、日朝交渉は3年間まったく行われていない。今回は、これを厄介者扱いしないで、交渉の場を設けて本人たちが亡命を希望していること、韓国に引き渡すことをはっきり伝え、その場を利用して日朝交渉の再開につなげるいいチャンスと思う」
外交素人の民主党にそんな芸当ができれば少しは見直すのだが。