<さや侍>ある事情により刀を捨てた武士、野見勘十郎(野見隆明)は一人娘のたえ(熊田聖亜)と流浪の旅を続けていたが、脱藩を問われて囚われの身となり、切腹を言い渡される。絶体絶命の瀬戸際、変わり者の殿様から「お情け」をかけられる。母親が死んでから笑顔を失った若君に、一日一芸を披露して30日以内に笑わせれば無罪放免というもので、失敗すれば切腹という難題であった。
監督は松本人志だ。
素人の野見隆明に台本渡さぬ演出
時代劇という馴染みやすさもあるのか、過去の松本作品と比べてとっつきやすい印象を見る前から受けた。内容も『大日本人』『しんぼる』に比べて解かりやすい。笑いもテレビで培ってきた松本人志のコントの手法に近い。
もともと、「若君を笑わせる」というハッキリしたストーリーなので、過去の作品よりも「笑い」がより解かりやすいテーマになっている。ただ、大まかな流れが「一発芸の連続」であるだけに、笑いが勝ち過ぎてしまうと、映画ではなくコントになってしまうという懸念があったはずだが、幸いそうはならなかった。
素人の野見隆明を起用し、台本を渡さず、リアルに一発芸をさせ、それを撮影するという舞台外の「演出」は、作品に独特の雰囲気を与えている。野見隆明と野見勘十郎のパーソナリティーの結合こそが、この作品の最大の見所であろう。
「らしさ」薄れて物足りない
しかし、「一発芸の連続」で終わらせない為の脚本上のひねりがなくてはならない。映画はラストに向けて毛色を変えていくが、「一発芸の連続」の蛇足に過ぎない印象であり、「解かりやすさ」が先行し、全体的にやや味気なさが残ってしまった。
『大日本人』と『しんぼる』という作品は、良くも悪くも「お金をかけた自主映画」という趣があったが、本作は商業映画よりに傾いている。それは松本人志にしか撮れないという要素が薄れていることと等しい。
「一般ウケ」を要求する商業映画と対峙してきた松本人志という新たな才能は、今後ともその難題と向き合うことになるであろう。お笑い芸人なのだから、思う存分好き勝手にやれば良いと思うが。
川端龍介
おススメ度☆☆☆