一種の帰国という感じ
国谷キャスターとのやり取りはこんな感じになった。
―松尾芭蕉は奥の細道への旅支度をしながら松島の月を思い浮かべたと言います。こうして(日本への)旅支度をされている時にどういう風景が胸の内によぎりますか。
「正直に申しますと、東京の住まいの近くに霜降橋という細い道があり、そこを歩くのを楽しみしています。かき氷屋さんがあって、店の前で『いらっしゃい』と声をかけてくれるんです」
―あえて日本永住を決心されたのはなぜなのでしょうか。
「私はあらゆる面で日本人に恵まれてきました。自分の国籍を捨てて新しい日本の国籍を得ることは、私の感謝の気持ちです。
最後の旅かもしれませんが、一種の帰国という感じもして、それに満足しています」
―日本のお好きな部分、魅力だと思っているのは何でしょう。
「以前、室生寺(奈良県にある真言宗の寺)に行った時、すごい雨が降っていてなかなか上がらなかった。お婆さんが私を見て傘を貸してくれたが、私が返せないかもしれないと言いましたら、『構いません。どうぞ使ってください』とおっしゃる。そういう親切さ、優しさが忘れられない。日本人の一番好きなところです」
震災で高見順の日記を思い出したという。我慢強く、優しく明るい被災地の人たち。それらの人たちを助けようと駆け付けた、権力も財力もない大勢の庶民のボランティア。そんな被災地の人たちを見たのか、キーン教授は日本人と一緒いたいという。
モンブラン