復興プロセスから漏れ落ちる「震災遺児と引き取り保護者」

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   厚労省によると、東日本大震災で両親ともに亡くした子どもは208人。片親をなくした子どもの把握はいまだできていない。できていない。NPO「あしなが育英会」は独自調査で1500人 とみる。

両親代わりの祖母「収入は月5万円の失業手当だけ」

   陸前高田市の高台の避難所に両親を亡くした兄弟がいた。専門学校生の菅野貴裕君、中2の昌明君。共働きの両親は職場で津波にあい、父は死亡、母は不明だ。家も流され、残ったのは5年前に撮った家族の写真だけ。2人は食事や衣類を分け合って暮らしている。

   伯父の村上恭一郎さん(62)が2人を引き取った。自らも家を流され避難所生活だったが、やっと仮設住宅へ入居できたのだった。老後をともにするはずだった妻は不明のままだ。村上さんはいま慣れぬ炊事をして2人を育てている。

「よかったなと思われたい」

   東松島市の避難所にいる小5の熱海さつきちゃん(11)は、祖母の恵美子さん(55)と80近い曾祖父母と一緒だ。両親と祖父を失った。家族を支えるのは恵美子さんだが、水産会社の仕事を失い、失業手当の月5万円だけ。ハローワークへ日参しているが仕事はない。

「市は義援金と弔慰金で食いつないでくれというだけ」

   親族里親制度を申請しようとした。三親等以内で里親登録すると、月5万円が支給される。ところが、手続きを始めたら、さつきちゃんが「さつき、どこかへ行くの」という。「里親」に敏感に反応したらしく体調も崩した。

   恵美子さんは授業参観にも行く。「子どもとして接しないと。母親と父親代わり。孫だから、体力の続く限りがんばらないと」というが、「あしなが育英会」の聞き取りでは、抑えていた感情があふれた。

「(普段は)泣くに泣けないんだものね」

厚労省いまだ実態把握できず

   こうした実態を厚労省はほとんど把握できていない。学校や自治体を通してデータを集めているが、片親の場合はほとんどわからない。幼稚園・保育園に行っていない幼児は、さらに把握がむずかしい。

   NHK社会部の戸田有紀記者は、「一刻も早く数と実態を把握する必要がある。生活不安のため、保護者に子どもたちと向き合う時間的、精神的な余裕がない」と、保護者支援の必要をいう。

   仙台の「あしなが育英会東北事務所」も同じ見方だ。専門の講習を受けたスタッフ26人が、自らも被災しながら子どもを育てる保護者の支援のため、実情の聞き取りを進めている。「あしなが」の奨学金で育ったスタッフもいる。だが、東北事務所の八木俊介さんは「『あしなが』だけでは無理、まだ入り口にも達していない」という。

   現地で子どもたちのケアに当たる仙台青葉学院短大の髙橋聡美講師は、「行政は実態を把握する義務を負っていない。片親だと離婚と同じ考え方。私案だが、復興支援法の中に、遺族支援を位置づける必 要がある」という。

   津波の被害は複雑だ。家を流され、土地も区画も不明、生命保険をどうするかーーこれらに対処するのは、子どもや保護者には無理。法律が保 護しないとという。弁護士の支援や行政窓口の指導も、組み込めという。

   3か月も経っていながら、支援が行き届かないどころか、実態把握もできていないとは。話の中に、89歳の祖父が11歳と9歳を引き取った例まであるとあった。政治家にはアンテナがないのか。「首相退陣」「いや辞めない」と騒いでいる人たちには、次の選挙で消えてもらうしかあるまい。

NHKクローズアップ現代(2011年6月27日放送「震災遺児をどう支えるか」)

ヤンヤン

文   ヤンヤン
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