ジャーナリスト黒岩涙香は、自らが発行する「萬朝報」で、表向きは紳士然として、裏で妾を囲うような「怪物」を徹底的に批判した。明治31年7月から9月まで「蓄妾実例」として、医師、前法相、豪商、軍人から作家・森鴎外にいたるまで、実名でその裏の顔を告発して話題を呼んだ。
その黒岩の批判精神を受け継いでいるのは「週刊新潮」である。綺麗事を並べ、天下国家を論ずるエセ紳士の化けの皮を剥ぐことをやらせたら、新潮に敵う週刊誌はどこにもない。先週号では、民主党の高橋千秋外務副大臣(54)が、震災2日後の3月13日夜、そのあと職務があるにもかかわらず、20代の女性を呼び出し、浴びるほど酒を飲んで、その女性の体を触りまくったと報じた。当然ながら、上司の松本剛明外相から厳重注意を受けたが、なぜ辞任ではないのかと、その大甘な処分に対しても批判が噴き出している。
「カツラずれるからセックスでも肌着脱がない」
その新潮が今週は、原発事故以来、原子力安全・保安院のスポークスマンを務め、顔だけは日本中に知れ渡ってしまったあの西山英彦審議官(54)が、「経産省の美人職員を弄んでいる」という仰天スクープをやってのけた。相手の20代後半と思しき清楚な女性と西山審議官が、ホテルオークラのオーキッドバーに現れたのは6月17日の23時過ぎ。女性が飲んだのはアマレットなどのカクテルで、彼はテキーラや赤ワインを注文したとある。
2人がそこを出たのは午前0時半過ぎ。ホテルを出てアメリカ大使館の前を通り、細い坂を歩きながら、西山審議官は彼女の手を握り、腰に手を回す。そして、とあるマンションのオープンスペースで、嫌がる彼女に迫り、唇を2度3度奪ったというのだ。しかし、そこからは期待に反して、彼女はそそくさとタクシーで帰ってしまうのである。
一夜の御乱行なのかと読み進めると、実は2人の仲は経産省の仲では知る人ぞ知るで、1年前から「特別な関係」が続いていると、2人を知る経産省の関係者が打ち明けている。デートの回数が増えたのは昨年11月くらいからで、11月7日から14日まで開かれたAPECの高級実務者会合で、議長を西山審議官が務めていた超多忙の時も、彼女とは6回も夕食を共にしたという。さらに、翌12月のデートの回数は10回程度で、1日、3日…27日、28日とある。ここまで読んでくれば、読者はこの情報を新潮にたれ込んだ人間が誰だか気づくはずだ。過日、彼女がキスされるのを嫌がり、タクシーで逃げ帰ってしまったのは、西山審議官と何らかのトラブルが起きていて、彼女の心は彼から離れていたからだろう。カラオケに行っても歌も唄わず、ラブホテル代わりにしていたという。さらに、こんなことまでバラされてしまうのである。
「西山さんは、古いカツラを使っているので、激しい動きをすると、カツラがズレてしまうとか。だから、ゴルフとかはやらない。笑っちゃいけないけど、セックスする際、上の肌着を脱ぐと、カツラが引っ掛かってズレてしまう。そのため、パンツは脱いでも上は着たまま、しちゃうそうです」(消息通)
西山審議官は経産省のスーパーエリートで、原発事故以来、そつのない答弁で、次官の目も出てきていたのだそうだ。長女は東京電力に務め、清水正孝社長とも昵懇で、東電ベッタリだった。
その西山審議官は新潮の取材に対して、「いつもの冷静さを失い、当初、中村さんと(愛人の仮名=筆者注)カラオケ店に行ったことを認めたものの、なぜか直ぐに前言を撤回。最後は『ノーコメント』を連発し、開き直るのであった」そうだ。
当然ながら彼女のほうもノーコメント。西山審議官も、原発事故さえなければ、全国的に顔を知られることもなく、新潮に愛人問題をたれ込まれることもなかっただろう。人徳がなかったといえばそれまでだが、何となく滑稽でありながら、うら悲しい話しである。
「週刊ポスト」原発煽りやらない潔さ…でもSEX記事に16ページいらない
次に、今週の「週刊ポスト」の誌面を取り上げて、考えてみたい。目次を見ると、右には「16ページ保存版『永遠の謎』を科学する イク!瞬間」、左には「上杉隆×長谷川幸洋東京新聞・中日新聞論説副主幹 さらば『原発記者クラブ』」がある。その他で目につくところでは、ゴルフの片山晋呉が女性問題で奥さんと揉めて離婚問題が起きているという記事。松井秀喜が阪神へ移籍するという情報があるという記事。お得意の提言特集は「今こそ第1回国民投票で総理を決めろ」。東京電力が失墜している中で、「東京ガスの逆襲」があるという特集。少し変わったところでは「本に生かされた人々の記憶『復興の書店』第2回 移動書店の人々」がある。この20本近い記事の中に、「週刊現代」などがメインに据えている放射能汚染の記事は1本もない。ちなみに、現代の大特集は「日本全国隠された『放射能汚染』地域」。その他にも、「玄海原発は爆発する」「私は放射能から逃げない」などずらりと並んでいる。
放射能の恐怖を徒に煽る記事づくりをよしとしない編集方針が、ポストには貫かれている。放射能が大変だ大変だという記事のほうが、営業的にはいいことがわかっているにもかかわらず、敢えて、安易な道を取らないのはさすがだとは思う。とはいえ、「なぜアメリカ人は『COME=来る』といい、日本人は『イク』というのか」を含めた「SEXサイエンス・レポート」に16ページも割く重要性があるのだろうか。
大新聞やテレビの原発報道が横並びの大本営発表だという批判記事は、私もその通りだと思うし、やる意義もある。ポストや新潮のように、今の1ミリシーベルト/年間や20ミリシーベルト/年間程度の放射能線量で心配することはないという報道があってもいいはずである。なにしろ、どこまでが安全で、どこからが体に影響があるのか、まだ判然としない。1ミリシーベルト/年間でも体への深刻な影響があるといわれれば、そうかもしれないと考え込んでしまうのが、大半の国民なのだ。
山下教授「放射能大丈夫説」10年先に後の祭りにならないか
新潮に「放射能版『人権団体』から解任要求された福島県『放射線アドバイザー』」という特集が載っている。山下俊一長崎大学教授は長崎生まれの被曝二世で、チェルノブイリへも100回以上行き、被爆者を治療してきたそうだ。彼は3月19日から福島県の放射線健康リスク管理アドバイザーを兼任しているが、「100ミリシーベルトまでは、妊婦も含めて安全」だとの言動を繰り返している。そのことで、様々な団体がアドバイザー解任などを求めて署名活動をしているが、アドバイザーになる科学者の立場がなぜ一つに限定されなければならないのかと疑問を投げかけている。
新潮は山下教授の発言はおおむね一貫していると書く。
「100ミリシーベルト以下の被曝による健康被害は証明されていない。チェルノブイリで〈原発事故との因果関係が証明されているのは、子どもの甲状腺癌の発症率が増えたことだけ〉(本誌4月7日号)」
山下教授は今回インタビューに答えて、「(中略)緊急時が続く間は100~20ミリシーベルトの積算線量の範囲内で基準を策定し、事故が収束したら20~1ミリシーベルトの範囲内でできるだけ低減化を図る。しかし、緊急時の基準がすぐに危険に結びつくわけではありません。100ミリシーベルト内の積算線量では、将来の発がんリスクは証明されていないのです」と話している。
揚げ足を取るわけではないが、原発事故が子どもの甲状腺がんの発生率を上げたことは証明されている。山下教授のいう100ミリシーベルトでも安全だということは、いまのところ証明されているわけではない。10年先に、やはりあのときの放射線量ががんの発生率を高めたことが証明され、安全だといったのは間違いだったと謝られても後の祭りである。
恐怖感を煽っているのは、一向に原発事故の収束の目処が立たないことである。事故当時と比べて原発事故に関する情報開示は極端に少なくなってしまった。これが、順調に収束へ向かっているからだとは、ほとんどの人が思ってはいないだろう。いま必要なのは、安全派と危ない逃げろ派が、お互い罵り合うのではなく、正面から論争をすればいい。あらゆる取材と情報を集め、本当のところはこうだと、国民に納得がいくように説明してほしいのだ。
書かないことが不安感を鎮めることにはならない。安全だと思う根拠をこれでもかと出し続けることこそ、ポストに求められる役割だと思うのだが。編集部はどう考えるのだろう。