外食産業のアジア進出が急だ。中国(64社)、タイ(30社)、シンガポール(28社)に向けて、カレー、牛丼、たこ焼き、とんかつなどが人気となっているのだ。ターゲットは急増する中間層。アジアでは今後10年間に2倍の20億人になると見込まれている。多少割高でも高級感を好む人たち。この成功例がタイにあった。
高級化で人気のバンコク「壱番屋」カレー
愛知のカレー・チェーン「壱番屋」は3年前、タイ・バンコクに出店した。人口570万人。タイには独特の食文化があり、なかでも屋台のカレーはポピュラーで、ココナッツミルク、ハーブの味が好まれている。一人前150円くらい。
これにあえて日本のカレーをぶつけた。値段も330円からとかなり高い。コメもタイ米ではなく、現地で栽培したササニシキ。ルーも日本からで、トッピングは30種類。店舗も高級感を出してブランド化した。「新しい食文化として持ち込んだ」と海外事業部長の葛原守さんは言う。
これが当たった。ちょっと贅沢な気分が中間層に受け入れられ、ファッション感覚に女性が乗った。昼時には1時間待ちとなるが、7割が女性客だ。2年で11店舗を展開し、1店舗当たりの売り上げは日本の店をしのぐ。葛原さんは次にインドをにらむ。5年で300店舗を目指すという。
タイではもともと日本の食品が人気だった。みそ、のり、納豆も健康食品として定着している。日本の味が受け入れられたのも、こんな土台があったからだ。目下、とんかつの「さぼてん」、たこ焼きの「銀だこ」などが続々と進出している。
日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部の北川浩伸さんは、「味も大事だが、雰囲気と日本式サービスが新鮮。おしゃれでステータスにもなる」という。そして「振り返りビジネス」。かつてハンバーガーなどが入ってきた時に日本人が受け入れた過程と、同じやり方をすればいいのだとも分析する。
大連では「王将」焼きギョーザ拒否!
逆に攻略できないのが中国だ。人口600万人の大連の名物は水キョーザ。皮が厚く食べごたえがあって、中身もバラエティーに富む。ここに2005年、京都のギョーザチェーン「王将」が出店した。むろん焼きギョーザだ。日本では580店舗で日に170万個を売る。焼きギョーザ定食(チャーハン、ラーメン)が売りで、増収増益を続けている。その勢いを水ギョーザの大連にぶつけたのだが、売れなかった。
大連ではギョーザといえば水ギョーザ。たまに、残ったものを翌朝焼いて食べる。それが焼ギョーザだった。また、中国人が外食する時は、家族や友人が連れ立って、大勢でいろんな味を楽しむ。王将の焼きギョーザ定食はあまりに寂しかったのだ。
王将は昨年、6店舗のうち2店舗を閉鎖。いま巻き返しに知恵をしぼっている。青島に出店したチャンポンの店も3年で撤退した。中国では野菜は安物のイメージだったのだ。64社のうち25社は縮小・撤退を経験している。
北川さんも中国の難しさは認め、「食文化が多彩ですからね」という。日本の外食産業は年間24兆円くらいで頭打ちだが、中国は3年前に日本を抜いた。「工夫次第では、ここに活路を開く可能性がある」という。
番組では、大連よりバンコクの客の方が経済的に豊かなように見えた。王将はターゲットを間違えたのではないか。ギョーザはどう転んでも庶民のもの。庶民レベルでは中国は手強い。タイやシンガポールだったら? 遠い記憶を重ね合わせてみたが、むろん答えは出ない。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2011年6月20日放送「『アジアの舌』を攻略せよ」)