<ブラックスワン>「白鳥の湖」の主演に抜擢された主人公が、プレッシャーに心を蝕まれていく様を生々しく描いたサイコスリラー。主演のナタリー・ポートマンはこの映画でアカデミー主演女優賞を獲得した。
元バレエダンサーの母親とともに人生の全てをバレエに捧げる日々を送るニナ(ナタリー・ポートマン)が「白鳥の湖」の主役に抜擢された。主役のスワンクイーンは純粋なホワイトスワン(白鳥)と邪悪なブラックスワン(黒鳥)を一人で演じなければならず、内気で繊細なニナにとって、ブラックスワンをどう演じるかが成功の鍵となる。
男を誘惑することに長け、ブラックスワンを地でいくような女性リリイ(ミラ・キュニス)は、ニナの座を虎視眈々と狙っている。やがて、ニナはプレッシャーから幻覚に悩まされるようになり、無意識のうちに自分の背中を爪で傷つけ始める。現実と妄想の狭間で、ニナは舞台を成功させることができるのか。
素晴らしい!トーシューズきしみ音の緊迫感
見どころは、なんといってもナタリー・ポートマン。舞台のダンスシーンはもちろん、ブラックスワンを自分の中に宿らせようと必死にもがく姿は、鬼気迫るものがある。ナタリー・ポートマン自身が『レオン』のマチルダ役で映画デビューして以来、「美しいが性的な魅力に欠ける白鳥的なイメージ」が根強かったが、それを打ち破る熱演を見せている。ダーレン・アロノフスキー監督の前作『レスラー』の主演ミッキー・ローク同様、役者として抱えているフラストレーションが熱演の原動力として上手く機能している。
話はスワンクイーンに大抜擢された主人公の本番までの奮闘劇という実にオーソドックスな作りだ。「白鳥の湖」という誰もが知っている古典をめぐる話なので、敢えてオーソドックスに徹しているのだろう。観客はストーリーを追いかける余計な詮索をしない分ニナに感情移入しやすいし、ラストのダンスシーンに否応なく引き込まれるという仕掛けだ。
音響効果も素晴らしい。トーシューズが床を軋ませるメシメシという音は、華やかに見えても水中では必死で足をバタつかせている白鳥のイメージを映画全体に広げている。ぜひ劇場のスピーカーで体感して欲しい。
おススメ度☆☆☆☆
野崎芳史