「ツーキニスト」急増!にわか自転車ブームで混乱する街と道路

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   自転車が空前のブームだという。駐輪場や自転車専用レーンがきちんと整備されたわけでも、自転車のマナーが良くなったわけでも、国が後押しする長期戦略があるわけでもない。それなのに自転車で通勤する「自転車ツーキニスト」と呼ばれる人たちが急増している。

   ひと足早く自転車ブームを迎えた欧州では、国家戦略として自転車の利用を促進し、次々と「自転車都市」が誕生している。自転車専用の「サイクルスーパーハイウェイ」の建設を進めている国すらある。日本とはどこがどう違うのか。

震災の交通マヒが後押し

   都内の広告会社に勤める男性は毎日15キロの道のりを40分かけて自転車で通う自転車ツーキニストだ。きっかけは8年前。運動不足がたたって体重が80kgに増えてしまった。一念発起して自転車通勤に切り替え、わずか1年足らずで8kgも減量できたという。

   健康にいい、環境にいい、カッコいい。そんなムード的なものが空前といわれる自転車ブームの背景にあるという。震災による交通マヒが自転車ツーキニストを後押しし、ブームに拍車をかけたという。

   ところが、東京は自転車専用道路が整備されているわけではないし、ルールがきちっと確立されているわけでもない。前出のツーキニストの男性が、都心の主要幹線をトラックやバスの隙間を縫うようにして走りぬける様は見ている方がヒヤヒヤする。

ルールなく非常識走行

   国交省は4年前、糖尿病など生活習慣病の医療費削減につなげる狙いで、試験的に全国98か所で自転車専用レーンの整備を始めた。しかし、自転車が走るスペースを確保するのは容易でなく、神奈川県相模原市の駅前道路に1.2kmを新設したところ、間もなく自動車の駐車場所になり自転車専用レーンを塞いでしまう結果になった。

   キャスターの国谷裕子「ツーキニストが急増しているなかで、怖い思いをしたり、逆に苦々しく思う人たちも少なくない現状をどう思いますか」

   国内外の自転車事情に詳しい自転車活用推進研究会の小林成基事務局長が次のように答えた。

「自転車のルールがみな分かっていない。歩道を通ったり、右側通行したり。これは1970年(昭和45年)に法律で歩道を通っていいと認めてしまったせいで、自転車は歩行者に近いと勘違いしてしまった。
ドライバーも自転車は歩道を通るものと思ってしまい、自転車はあいまいな状態に置かれてきた。自転車は『車両』だから左側通行は当たり前。歩道を通る場合は例外だから、『徐行して歩行者優先』となっているのにどこかにいってしまった。こんな状態は世界で日本だけ。非常識といわれています」

「オランダ」国民の4人に1人自転車通勤

   自転車先進国のヨーロッパではどうだろうか。ドイツ・ミュンスター市では、自転車を交通の主役と位置付け、市民の健康増進キャンペーンを行った結果、医療費削減が実現したという。オランダ・アムステルダムでは、CO2削減を掲げて市全域に自動車専用レーンが整備され、今や国民の4人に1人が自転車通勤という。

   イギリス・ロンドン市は自転車革命で社会変革を進めようという活動に取り組んでいる。ロンドンの中心部と郊外を結ぶ10kmの自転車専用道路「サイクルスーパーハイウェイ」が2本建設され、1日延べ7000人が利用している。今後4年間でさらに10本のハイウェイを整備して市内全域をカバーする計画という。

   小林事務局長「ロンドンの自転車革命は10数年の準備期間があった。その前提として『人を大事にする』という哲学があるんです。日本は国交省のモデルレーンを見ても7割は歩道に作っており、思い付きの感じがする。

   道路の王様は、まず公共交通機関のバス、次にタクシー、トラック、最後は乗用車。ロンドンでは自転車はバスと同じ位置付けなんですよ。それが、きちっと子どもの時から教育されている」

   小林事務局長はこんな指摘をした。

「不幸な出来事だが、震災はライフスタイルを考え直す良いきっかけになりそうな気がする。ツーキニストの登場も政府や行政が受け皿を作ってやらないと、健康で環境にいい暮らしをしようとしているのに、かえって邪魔することになってしまう」

モンブラン

*NHKクローズアップ現代(2011年5月25日放送「『ツーキニスト』が世界を変える」)

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