今年度から小学5、6年生に英語が必須(週1回、年35コマ)になった。目指すのは英語の習得ではなく、コミュニケーション能力を養うため英語の音声・表現に親しみ、外国の文化を学ぶことだ。現場では様々な混乱が起っているが、新しい明日への試行錯誤である。
まず、だれが教えるのか。小学校教員には英語の専門はいないから、7割の教師が発音や文法に不安をもつという。父兄も外国人教師を望む。結果、教育委員会の3分の1が、外国人指導助手を民間会社に業務委託しているのが現状だ。
業務委託の外国人指導助手-休んでばかりで3か月7人交代
神奈川県横須賀の小学校の米人助手は父兄にも人気だが、授業内容に学校はタッチできない。「業務委託」に直接口を出すと、法律上は「偽装請け負い」になってしまうからだ。担任との打ち合わせもできないし、授業に要望があるときは、委託会社に言わないといけない。
茨城のある自治体では、来る助手、来る助手がたびたび休みをとるため授業日数が足りなくなり、助手の交代が3か月で7人という質の悪さが問題になった。会社に抗議しても、返事は決まって「急に帰国した」「契約上辞めた」だという。
ある教委は1億2000万円で14人を2年間の予定で入札にしたところ、1社が半値以下で落札してしまった。質の低下が懸念されても、競争入札だと落札に従わざるを得ない。安値が出せるのは助手の給料を押さえ込むからで、待遇の悪さから辞めていく結果にもつながる。
宮崎市は直接雇用にした。これなら担任と指導助手が打ち合わせもできて理想的だが、採用で苦労した。はじめは大卒を条件に欧米の助手を募集したが、26人の定数に達せず。あえて母国語のワクをはずした結果、国籍は13か国、うち半数はアジア系になった。しかし、これが思わぬ効果を生む。さまざまな国籍の助手たちがそれぞれのお国ぶりを語ったところ、子どもたちが興味を示して、外国の事象を知ろうと意欲的になったという。
日本人教師を中心にやっているのが広島・尾道市だ。外国人の指導助手は月に1回しか来ない。日比崎小の村山久美さんは「英語は得意でもないし不安でした」という。使う単語の洗い出しなど準備が大変だというが、生徒たちが祭りに参加した体験を英語にして指導助手にメッセージを出すなど、工夫をこらす。同校の大垣公子校長は、コミュニケーションとはなにかを十分議論した結果だという。「伝えたいという思いがないと、言葉が出ないものです」
教えるのは英語でなくコミュニケーション
松山大学大学院の金森強教授は「先生方はとかく英語を教えてしまいがちだが、一番大事なのはコミュニケーション能力の素地を身につけること。相手の気持ちを推し量り、いかにこちらの意志を伝えるかを工夫することだ。さらに、この制度についても、「英語のモデルではなく、コミュニケーションのモデルを学ぶこと。伝えたいことがあるから言葉を選ぶ、フレーズを選ぶ。それを英語で伝えられた達成感が次の段階の中学につながる」と話す。
長いこと日本の英語教育は読んで訳すことだった。だから「読めるけどしゃべれない」か、「読むのも嫌い」ばかりだ。これからの子どもたちは英語が生きた言葉であるという実感からスタートする。これは大きいはずだ。正直、ちょっとうらやましい。
*NHKクローズアップ現代(2011年5月23日放送「教壇に立つのはだれ?~小学校・英語必修化の波紋~」)ヤンヤン