南田洋子「認知症」放送されなかった旅シーン
映像は時に残酷だ。「(記憶が)手のすき間からボロボロ落ちていくのを、何とかかき集めて洋子の手のひらに乗せてやるんだけどさ…」と介護を語っていた74歳の長門 。キスをする若い日の2人。そして、最初に南田さんの異常をうかがわせた映像もあった。04年5月、夫婦で旅番組の収録中、食事をしながらの会話だ。
「あなたはどう思う?」
「え?」
「もういいわ。私をそういう嘘つきにするんだったらね、これからいっさい口きかない」
突然怒り出した南田に戸惑う長門。
また別のシーン。
「もし言うことがわからなくなったらどうすればいい?」
南田の目がきつい。
「そんなこと……」
「私はすごく考えちゃうの」
「……困ったもんだね」
どちらも放送されなかった。
その後、セリフが覚えられなくなって、「ワンワン泣きながら覚えた」と長門。 南田は表舞台から消えた。介護の映像は一層悲しい。
「愛してるよー」
「洋子もだよー」
南田がくも膜下出血で倒れた09年10月21日も、楽屋で死の知らせを聞いて、長門は舞台にあがった。そのあとの会見の様が、記憶に残る長門裕之の最後の姿だった。
文
ヤンヤン| 似顔絵 池田マコト