<岳>2008年の第1回「マンガ大賞」、09年の第54回「小学館漫画賞」を受賞した石塚真一の同名ベストセラーコミックの映画化。
山を愛し山を知り尽くした山岳救助ボランティア・島崎三歩(小栗旬)が暮らす北アルプスに、新人救助隊員の椎名久美(長澤まさみ)がやって来る。久美は三歩の大らかすぎる人柄に戸惑いながらも、彼の指導のもと成長していく。
しかし一方で、自身の未熟さや自然の猛威で遭難者の命を救うことができずに悩む日々。そんなある日、猛吹雪の雪山で多重遭難事故が発生。三歩や久美を待っていたのは、「爆弾」と呼ばれる急速に発達した低気圧だった。
原作コミック「登山愛好家のバイブル」
舞台は北アルプスの標高3000メートル級の山々。この役のために、小栗は真冬の山でトレーニングを積み、当初予定になかったアイスクライミングや懸垂下降のシーンも追加で撮影されたという。コミックでは味わえないド迫力の映像が観客を引き込む。北アルプスの広大な自然の映像美も圧巻だ。
現在も連載が続く原作コミックは、「登山愛好家たちのバイブル」と言われるほど熱烈なファンが多い。映画化のニュースが流れた昨年、主人公の三歩役が小栗旬と聞いて、私の周りの山好きたちは「イメージと違う!」と憤慨する人が結構いた。でも、実際に映画を観ると、これがなかなか泣けた!
三歩という器のでかい登山のカリスマが、どんな困難も乗り越えて人の命を救う。これをイケメンの小栗がやれば、そりゃもうパーフェクト。難色を示した山好きたちは、きっと汗や涙のにおいを感じられない「小栗旬ヒーロー物語」になってしまうことを懸念していたのだろう。
岳ファンから「山猿」続編待望論
心配ご無用。原作コミックが肝としている部分、つまり遭難者がどんな理由で山に入り、そこで誰を思い、またそんな彼らに三歩がどう寄り添っていくかという、山を愛する者たちの心の機微を映画版もたっぷり尺を使って丹念に描いている。小栗も事前に山で鍛え、リアリティーをストイックに追求してきただけあって、最後まで観客をひきつける演技で、結果的にはよいキャスティングだったと思う。
山岳救助のお話なので、次から次へといろんなパターンの遭難・救助のエピソードが続くいささか単調な展開だが、映像の迫力、場面展開のスピード感、そして小栗や長澤たちの演技がそれを補って、あまり気にならない。
三歩役をすっかり自分のものにした小栗は、この映画で一部の岳ファンからは、「海猿」ならぬ「山猿」と呼ばれているとか。続編あるかもしれない。
バード
オススメ度:☆☆☆