<名前をなくした女神(フジテレビ系火曜よる9時)>これはもうスリルとサスペンスを超えて、ホラーの世界ですね。日常の中に埋め込まれた恐怖ほどコワイものはないというのが日頃の実感だけど、まさにそのとおり。だって逃げ場がないもんね。そんなわけで、毎週ドキドキしながら見ている。「ああ、良かった。あんなコワイ世界と無縁で」と思いながら、のぞき見するちょっと意地悪な興味もある。
木村佳乃の凄み「つわりがひどかったのね」
舞台は幼稚園。侑子(杏)は会社を辞めざるを得なくなり、息子の健太(藤本哉汰)は保育園から「ひまわりの子幼稚園」に転園することに。そこでのママ友付き合いは侑子を戸惑わせるばかり。
まずもって、送り迎えのママたちのファッションがすごい。上品なスーツに白いイヤリングまで着け、バッグとおそろいのパンプスでビシッときめた「爽くんママ」ちひろ(尾野真千子)。毎日が入学式か!
華やかなドレスにハイヒール、一分の隙もなく固めた「彩香ちゃんママ」レイナ(木村佳乃)。毎日が結婚式か!
その他、個性派キャリアタイプの「海斗くんママ」利華子(りょう)に、安っぽいながらも目いっぱい盛装した元ヤンママの「羅羅ちゃんママ」真央(倉科カナ)。
女優陣はみんなピッタリはまったみごとなママぶり。杏は5歳の子がいるにしては若すぎると最初は思ったけど、すぐに違和感なく入り込めた。それにしても木村佳乃の怖いこと。整った美人顔が痩せたせいでますますシャープになり、陰険さが凄みを感じさせる。「気むずかしいヒガシ(東山紀之)との結婚生活がつらいのでは」と、思わず私生活を心配してしまったが、その後、おめでたと知り、つわりで食べられなかったのかしら、女優もたいへんね、でも良かった良かった、とすっかり近所のおばさん気分。
いやいや、本当に怖いのは妙にすり寄ってくる尾野真千子の怨みがましい目つきかな。冷たくされたと思ったら、何をしでかすかわからない暗さ。尾野真千子、うまい。倉科カナは力いっぱいの演技で、憎たらしい中にも悲しみをにじませて、かわいい。
自分の不運「子どもの幸せ」に押しつける母親たち
ママたちは小学校お受験をめぐって虚々実々の戦いをくり広げるわけだが、彼女たちをここまでおかしくさせているのは、結局はそれぞれが抱える不幸だ。自分の不幸を「子供の幸せ」に賭けることで解決しようとしているのだが、そんなことはできるわけもない。それを押しつけられる「子供の不幸」もしっかり描かれている。
ママとしての幸せは「子供をもったこと」そのものなのではないか。エリート亭主がじつは痴漢だろうと、模範亭主が浮気をしていようと、学歴のないトラック運転手だろうと、かわいい子供をもてたなら、もう男などは関係ない。哺乳類のメスは本来オスの助けを借りない。自分で取ってきたエサを食べ、子供にも食べさせる。ママたち、早くそれに気づいて自分の名前を取り戻してね。これ、おばさんからの切実な願いなのよ。
カモノ・ハシ