東日本大震災で不気味だったのが首都圏の液状化現象だった。歩道のタイルが行き違い、水が吹き出す、住宅やマンホールが浮き上がる……。これほど多様に映像でとらえられた例はこれまでなかった。
被害が深刻だったのが戸建て住宅で、関東だけで1万7000棟が傾いたり沈んだり。なかでも集中したのが、震源から300キロも離れた千葉・浦安市で、被害は8000戸に及んだ。ディズニーランドがあるおしゃれな町で人気だが、市域の4分の3が埋め立て地である。
補修費1000万円、もうローン無理
すし職人の石川禎さん(34)宅は3度も傾いた。3000万円・35年ローンで昨年新築したばかりだった。傾きを直すには500万円、地盤強化にはさらに500万円かかる。国は支援の認定基準を見直したが、石川さんの場合は150万円しか出ない。年収400万円では新たなローンは無理だ。
「夢の町だったのに」
液状化は内陸でも起った。東京湾から50キロ離れた埼玉・久喜市の三谿(みたに)丈留さん(65)宅は、28年前に市が宅地開発したところだが、昔は沼や田んぼだった。傾きは1.9度だが、「30分いると気分が悪くなりますよ」という。傾きが0.8度を超えると、健康に支障が出るという調査がある。
家のローンがまだあるので補修費は出せない。しかし奥さんの頭痛が治らず、ついに家賃5万円のアパートに引っ越した。「一生いたかったんだけれど、まさか液状化現象なんて」と奥さんはいう。
マンションのではこういう問題は起らない。土地の安全基準が法律で決まっているからで、戸建てには何もない。安田進・東京電機大教授は、「液状化は新潟地震以来、各地で起っているが、着目されなかった」という。土地の造成は開発者まかせ。浦安も久喜もそうだった。
東京都が作った液状化のハザードマップというのがある。これによると、23区の東端、東京湾から江戸川あたりはすべて液状化が起る。M7.3の地震で、関東一円で全壊家屋が3万3000棟(神奈川、千葉、東京だけで2万6000棟)となっている。今回は1万7000棟だが、全壊はごくまれだったから3万3000棟という数字は恐ろしい。
古地図でかつての地目確認
といって対策はない。まずは、いま自分が住んでいる土地は以前は何だったか。これだけは知っておく必要がある。図書館の古地図の閲覧が増え、国土地理院のサイトの古い航空写真へのアクセスは倍増、地図専門店の客は7倍になったそうだ。
宅地液状化の対処技術にはいくつかあるという。ひとつはマンション向け対策の応用で、モルタル注入による地盤の強化。羽田空港など大型施設で広く使われているが、戸建てだと500万円かかる。岩盤までコンクリートの柱を打ち込む方法はビルなみの強度だが、まだ実用例はない。床下4メートルまでコンクリートの四角いワクを埋め込む工法は100万円程度だが、建て替え、新築にしか使えない。いずれも、コストが課題だ。
安田教授は「安い工法がまだ一般化していない。液状化の可能性を見るには、地質調査が必要。造成か建築段階か、どちらかで見極める必要がある。技術でも国が指針を出さないといけない」という。
その通りだろうが、どれもこれから建てるときの話だ。すでに傾いてしまった家はどうなるのか。前出の石川さんが「宮城の人に較べれば ねぇ、あっちはなくなっちゃったんだから」といっていたが、これも辛い話だ。1万7000のドラマは終わらない。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2011年5月9日放送「住宅は大丈夫か 見落とされた液状化対策」)