車谷長吉に比べれば西村賢太など「風呂の中の屁」
この他にも、ジャーナリスト青木理氏の連載は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で全身の自由が利かない難病にかかったにもかかわらず、眼球の動きで文字盤を追いながら部下に指示を与え続ける日本一の病院帝国を築きあげた徳田虎雄氏のルポである。
「現場の磁力」で取り上げているのは、私の好きな私(わたくし)小説家・車谷長吉氏である。彼の生き様に比べれば、最近、芥川賞をとった西村賢太氏などは「風呂の中の屁みたいな」なものである。氏へのインタビューを試みているのだが、ほとんど沈黙。最後、私小説を書かないのですかという質問に、「書か、ない。ひとのも、読ま、ない」「ぼけたい」。週刊誌にこういうページがあることが嬉しくなる。
佐野眞一氏が孫正義氏にインタビューしている「私欲に非ず」も注目。個人的には孫氏は好きな企業家ではないが、今回の中で、政府や東電の対応のまずさを批判している箇所は的を射ている。
「今回でいえば僕は徹底的に放射能問題を調べて公表すべきだったと思う」
「完全に政府のミスといえるのは、例えば、原子力安全・保安院が発表した安全基準がIAEA(国際原子力機関)とはまったく違う、日本独自のモノサシだったことです。(中略)IAEAの基準は土地の表層部分で、1平方メートルあたりの放射性物質を計測する。ところが保安院はわざわざ地面を5センチ掘り、採取した土壌1キログラムあたりの放射線量を測る。放射線は表面に付着するんだから、掘って測れば、10分の1くらいになってしまうじゃないですか。ある種の偽装、粉飾です」
「臆病だといわれるくらい、思い切った退却をして、安全を確認してから戻ってきても全然遅くない。ところが今回のように、避難地域を徐々に小出しにしていくやり方は、一番最低のやり方ですよ」
孫氏は朝鮮人であるために子供の頃差別を受けていたが、福島の人たちへの放射能差別問題を聞かれてこう答えている。
「レッテル、しかも負のレッテルを貼られたときの辛さというのは、貼られた側じゃないとわからないですよね。で、貼るほうはあまり罪の意識がないんです。貼られて初めて感じる心の痛みがある」
ポストは難しい方向へ舵を切ったが、雑誌ジャーナリズムが再び力をもつことができるのか、注目して見ていきたい。