ビデオの映像を見終わって、司会のみのもんたはしばらく言葉が出なかった。声を詰まらせながら、「たまんないですよね。お父さんが帰ってきたら何と言うと聞かれて、遅かったじゃないか、と言うなんて…」とやっと話し始めた。
岩手県陸前高田市の避難所で暮らす小学4年生と2年生の兄弟の話だ。両親はまだ行方がわからない。父親はトラックの運転手だった。よく肩車をしてくれた。それを思い出して、取材スタッフに何度もねだる。
避難所で祖母と暮らす9歳と7歳
兄は佳紀君(9)、弟は晴翔君(7)。祖母が面倒をみている。お年寄りの多い避難所で佳紀君は掃除をしたり、食事を配ったり、手伝いをしている。晴翔君は水汲みの当番だ。「ここで住まわせてもらっているから」と兄が言う。
―いま、何を食べたい?
弟「お寿司」
―何が好き?
「イクラ、かっぱ巻き、納豆巻き、かんぴょう巻き、マグロのワサビついてないやつ」
スタッフは残酷なことを聞く。「いま、誰と会いたい?」。決まっているではないか。ふたりは両親との再会を信じているのだ。
「お母さん、父ちゃん」
―迎えに来たらなんて言うの。
兄「なんで遅いんだよ~、どこへ行ってたんだよ~って言う」
文
一ツ石| 似顔絵 池田マコト