津波で壊滅した岩手・陸前高田市で江戸時代から200年続く醤油の老舗「八木澤商店」が、若い社長のもとで再建に動き出した。まずは失われた秘伝の「もろみ」探しだった。リポーターの玉井新平が伝えた。
2キロも流された樽から削り取り
陸前高田は人口2万人、死者・不明はその1割にあたる2000人。町の中心部は、鉄筋の建物が一部残っている以外は真っ平らで何もない。
八木澤商店は1807年創業。全国品評会で何度も最高賞をとった高い品質は、昔ながらの「もろみ樽」を使った仕込みから生まれる。大豆と小麦を樽の中で2年熟成させる。その樽も14個すべてが津波で流された。震災後に先代の父親から社長を引き継いだ河野通洋さん(37)は、従業員を前に話した。
「全部なくなった。残ったのはトラック2台だけ。でも、八木澤商店の最大の強みは団結力と『便所の100ワット』といわれる明るさです。この土地を照らす小さなランプでいい。光になりましょう」
新社長が打ち出したのは雇用はパートも含めて全員維持することだった。新入社員の女性2人もちゃんといる。
「こんな会社でいいかな?」(笑い)
従業員たちは泥の中を歩き回って流された商品を探して歩いた。河野社長は「200年の蔵付きの微生物の中に特有の微生物がいる。それが発酵や熟成を促してくれて、 おいしいものができる」という。それが「もろみ」だ。
樽もみつかった。もろみを寝かせる樽は2キロも離れたところに転がっていた。直径が大人の背丈より大きい。いまは乾いた樽の内側にこびりついたもろみを削り落として袋に入れる。そんなもので伝統の味が蘇るのだろうか。
震災前に作られた貴重な1本
社長は「まだ可能性にすぎないが、200年の味を受け継ぐことは、次の200年の足がかりになる。10年経ってホントにいい町になったといわれるような町にするのがわれわれの使命だ」と話す。
司会の羽鳥慎一「この状況で雇用を維持して、社員も社長についていく。だから光が見えてくるんでしょうね」
立花胡桃(作家)「あんな樽の底についていたものだけで…?」
玉井が「もろみの中の酵母のよし悪しで味が決まってしまうんです」と、にわか仕込みの知識を並べる。酵母菌を冷凍保存して、新しい蔵を建てた後、蔵に酵母菌を付着させるのだそうだ。もちろんそれだけではない。玉井が八木澤商店の醤油ビンを見せた。この中にも「もろみ」は生きている。
立花が「その醤油は買えないんですか」
玉井「これは震災前に作られた貴重な1本なのでお返ししないといけないんです」
みんな納得していたが、そういわれるとますますなめてみたくなる。