<英国王のスピーチ> 王としての優れた資質がありながら、重度の吃音に苦しむ英国王ジョージ6世と、平民で風変わりな言語聴覚士との身分を超えた友情の物語である。今年のアカデミー賞で「ソーシャル・ネットワーク」を退けて、作品賞を含む4部門に輝いた話題作だ。
兄の退位で望まぬまま王位継承
1930年代のイギリス。国王ジョージ5世の次男アルバート(コリン・ファース)は、子供のころから吃音に悩む内向的な性格だった。結婚してからは、妻エリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)の勧めで、言語聴覚士ライオネル(ジェフリー・ラッシュ)の診療所に通っている。ライオネルは平民ながら王族を特別視せず、アルバートに型破りな治療を次々と施していく。反発するアルバートだったが、努力の甲斐あって次第に症状は軽減。二人の間に信頼が芽生えていく。
そんなある日、国王の兄・エドワード8世(ガイ・ピアース)が、離婚歴のあるアメリカ人女性と結婚するため退位してしまい、アルバートはジョージ6世として望まぬままに王位を継承する。
さらに時代は第二次世界大戦に突入、イギリスはヒトラー率いるドイツを相手に開戦。まだ吃音が治らないアルバートは、国王としてイギリス国民に団結を訴えるスピーチをしなければならなくなる。
コリン・ファース演技お見事
「王冠をかけた恋」として世間に衝撃を与えた兄・エドワード8世の人生があまりに劇的すぎて、その影に隠れがちなジョージ6世(現エリザベス女王の父)の史実に基づいた物語だ。
内気な国王が社会階級を超えた友情と家族の愛情に支えられて、吃音を克服していくというストーリーはわかりやすい。派手などんでん返しもない。ただ、王も一人の人間であり、市井の人と同じように悩み、時に喜びに涙するという人間味溢れる姿は共感を誘う。そのあたりのファースの演技は実にお見事で、インテリジェンスに富む気品溢れる国王としての顔と、高揚すれば大声で歌い卑猥な言葉も連発する人間らしい顔の両方の魅力を巧みに演じている。
脚本はライオネルの日記やエドワード直筆の手紙などが下敷きになっている。たとえば、「W」の発音をとちったエドワードが、「わざとやったんだ。私が話していると国民がわかるように」と語るセリフは日記がネタもと。ウィットに富んだ国王の人柄が見えて実にほほえましい。
史実をもとにした歴史モノということもあってストーリーは単純で、イギリス王室をよく知らなくても気軽に楽しめる。ただ、スピーチの重要性が日本人にはやや伝わりにくいという弱点がある。少し補足するならば、中世は別として、近現代のイギリス王室は統治する権利、税などを徴収する権利、戦争をはじめる権利などは持っていない。国民の模範となり、語りかけることが何より重要な任務である。それだけに、言葉が上手く出てこない吃音は、王として致命的な『欠格』となりかねない。そのあたりを頭の片隅に置いて見ると、この映画の意味がよくわかるはず。ドラマティックではないが、静かな感動に心温まる秀作。
バード
オススメ度:☆☆☆☆