<サラエボ、希望の街角>第二次世界大戦後のヨーロッパで最悪の紛争といわれるボスニア・ヘルツェゴビナ紛争。舞台はその首都サラエボ。航空会社の客室乗務員として働くルナ(ズリンカ・ツヴィテシッチ)は、空港で働く恋人のアマル(レオン・ルチェフ)と同棲をしている。ある日、アマルが仕事中の飲酒を理由に停職処分を受ける。やがてアマルは宗教に傾倒していき、二人の間に溝が生じていく。
監督は長編第一作『サラエボの花』で脚光を浴びたサラエボ出身のヤスミラ・ジュバニッチ。
宗教が人びとを救い憎しみを生む
映画に映るサラエボは15年前の紛争の傷跡が修復され、街は活気が溢れている。だが、人々の心に残った戦争の傷跡は生涯消えない。ルナは目の前で両親を殺され、アマルは過酷な戦場を経験し、弟を失っていた。戦争後遺症を抱えたアマルは、その苦しみからの解放を「正しい信仰」に求め、イスラム原理主義者になっていく。現在のボスニアの人々の大多数はイスラム教徒である。ルナもアマルもその家族も皆がそうである。
だが、同じイスラム教でも、土地によって信仰の度合いや生活様式が全く違う。「イスラム教徒の女性」というと髪や肌をベールで隠している姿を思い浮かべるが、ルナはベールを付けない。アマルは原理主義に走ったが、ルナにとっては宗教が生活の全てではない。
旧ユーゴ紛争、イスラム教の思想、宗教対立……。作品には宗教を介在とした要素が大きく含まれているので、難解な部分が少なくないが、宗教に傾倒し戦争の悪夢を振り払おうとするアマルに対して、妊娠を知ったルナがとる決断は誰の胸にも響く。そのルナの姿が「監督の希望の象徴」のように映る。サラエボ出身の監督がセルビア人とクロアチア人を起用したキャスティングからも作品のテーマと監督の想いが伺える。監督の芯の強さとルナの人生の決断がリンクした時、映画史に残るラストシーンが生まれた。
川端龍介
おススメ度☆☆☆☆