無縁社会に求める「強い絆」
なぜ仲間たちの強い絆に心惹かれるのか。人とのつながりを研究している関西大学の安田雪教授は「主人公ルフィと仲間たちのつながりには一つの特徴がある」と言う。主人公ルフィと仲間のゾロ、ナミ、サンジ、ウソップ、チョッパーの計6人に、新たにロビンという女性が加わる。
このロビンの弱点に敵が目をつけ、ルフィたちへの裏切りを迫る。しかし、ルフィたちはロビンへの信頼を貫き、敵を退けてロビンを取り戻し絆が一層深まる。このゆるぎない信頼が読者の心を惹きつけるのだという。
「そういったものを現代社会に求めながら、実現できないもどかしさがあるのではないかと思う」(安田雪教授=前出)
スタジオには甲南女子大文学部で文化論が専門の馬場伸彦教授が出演していた。国谷裕子キャスターの「なぜ大人たちに受けるのか。ヒットの理由をどう見ていますか」という質問に次のように答える。
「ワンピースの第1巻が刊行された1997年は新卒者の就職氷河期へ突入、終身雇用制の廃止やリストラで行き場を失った閉塞感が子どもにも広がった。
同時に、携帯電話やインターネットの普及でネットでの個人の世界は広がったが、孤立感も深まった。一流大学や高学歴者しか認めないような社会ができ上がった。その前までは、努力すれば何にでもなれ、個性も尊重された。
ワンピースが刊行された時期は、そうした価値観が無意味ではないかと思われはじめた時期なんだと思う。理想と現実、本音とタテマエが乖離した状況の中で連載が重なっていった」
無縁社会の中で孤立感を深める現実。その一方で、本音で語り合える仲間たちとの深い絆を漫画に求め、涙しながら共鳴する。ワンピース現象はこうした矛盾した社会を浮き彫りにしたようだ。