<酔いがさめたら、うちに帰ろう。> 「来週はシラフで家族と会うのです」と言いながら、ウォッカを飲み、トイレで大量の血を吐いて倒れた戦場カメラマンの安行(やすゆき)。母親と駆けつけた元妻・由紀に見守られながら、救急病院へと搬送されていく。今回で10回目の吐血。安行は重度のアルコール依存症だった。
由紀の知り合いの医者のアドバイスもあり、安行はとうとう精神病院のアルコール病棟に入院することになるのだが…。
『毎日かあさん』『いけちゃんとぼく』などの著作で人気の漫画家・西原理恵子の元夫で、2007年にガンで亡くなった戦場カメラマンの鴨志田穣(かもしだゆたか)の自伝的小説を映画化である。
120%輝くイッちゃってる魅力
アルコール依存症と家族の絆という複雑なテーマながら、わかりやすく、なかなかうまくまとまっているというのが第一印象。その大きな理由は、絶妙なキャスティングにある。鴨志田をモデルにした主人公・塚原安行を浅野忠信、元妻・園田由紀(西原がモデル)を永作博美が好演。安行と同じアルコール病棟の患者に光石研、志賀廣太郎、蛍雪次朗ら、医師に高田聖子、甲本雅裕、利重剛など個性的かつ演技に定評のある役者たちが脇を固めている。永作の子供2人を抱えた母親役も予想以上によく、女優としての優れた技量を感じさせる。
しかし、ここで特筆すべきは、やはり浅野忠信だろう。『劔岳 点の記』では寡黙で責任感の強い測量士役を演じていたけど、この人は世間的に見てダメな人、イッちゃってる人を演じた方が120%輝くなぁと再確認。
アルコール依存症患者であり、夫であり、父であり、そしてジャーナリストという複数の顔を持つ役どころを、浅野はどの面を切っても自然体で演じている。カレーに異様な執着を見せる看護師泣かせの患者、酒にのまれては悪態を吐く夫、そして子供たちにはめっぽう甘い父親と、どの顔も「愛すべきダメな人」として、好感を持って見ることができる。
物足りない家族風景
一方、ザンネンだったのが、家族崩壊にいたるまでのいきさつや、最後はガンも発症した壮絶な闘病生活の描写がとてもライトだったことだ。ちょっとした涙や笑いをスパイス的には入れているものの、安行の入院生活と、退院後に家族4人で過ごしたひと時を、最後まで淡々と美しく穏やかに描く。だからこそ、この病気を知らない人でも引くことなく最後まで観られるのかもしれないが、観客の心をわしづかみにするようなリアリティーのあるシーンがストーリーのどこかにほしかったというのが正直な感想。ラストの情緒的な家族風景のシーンも、「美しいけど、なんか物足りない」と引っかかっているうちにあっけなく幕切れしてしまったような、尻すぼみの印象を受けた。
今回が鴨志田視点ならば、次は西原視点で夫や家族を描いた作品が観たい。そんなことを考えていたら、なんと来月から西原理恵子の原作で映画『毎日かあさん』が公開されるという。しかも現実でも夫婦だった小泉今日子と長瀬正敏が夫婦役! こちらは西原節が効いた、より豪快な展開を期待したい。
バード
オススメ度:☆☆☆