医師立ち合いで最後の説得
今年7月、両親は診療所のスタッフの支えで華子を1泊2日の旅行に連れていった。行き先は海が大好きな華子のために神奈川県大磯を選んだ。華子はよほど嬉しかったのだろう。「緑の匂い、空気、木の匂い、海の匂い、優しい人たちのいい匂い、私は忘れません」と周囲の人に伝える。
華子の喜ぶ姿を見た父の喜八郎は悩んだ。
「助かる命ならどんなことをしても助けたい」
相談を受けた前田医師は「私も迷うことなく、生きてほしいと思う。しかし、これは私の価値観が入っちゃいけないので、家族3人で決めていただきたい」と答えざるを得なかった。
そして父親は、前田医師立ち合いのもと、涙を流しながら華子に最後の説得を試みた。
「華ちゃんね、生きていくことは大事なことだと思う。生きていればきっといいことがあるんだよ。せっかく生まれたんだから少しでも長く生きてもらいたいと思う」
華子の答えは「私は納得しているんだよ。パパやママはつらいかもしれないけど私の気持ちは変わらない。もう決めたことだから言わないで」だった。
生きてほしいと願う両親に、「延命はいらない」と伝える華子の気持ちもどれほど辛かったことか。
8月の終わり、華子の容体が悪化した。肺炎を起こし呼吸ができなくなったのだ。痰を吸引する管が気管に入らなくなっていた。
スタジオには、40年近く難病の子供と向き合ってきた聖路加国際病院の細谷亮太副院長が出演した。キャスターの森本健成が「お父さんが、チャンスがあるなら長く生きてほしいという願いを伝えることはいけないことなんでしょうか」と聞く。
細谷医師はこう答えた。
「私もお父さんの気持ちが一番伝わってきた。当たり前の気持ちだと思う。ただ、18歳の華子さんでしょう。もう少し小さかったら、12とか13歳だったらお父さんの意をくんで医師も説得にかかったと思う。18歳という自分の意見をちゃんと言える年で、医師も両親の決定に任せたのだと思う」
先端医療が進歩すればするほど、こうした患者や家族の辛い選択が多くなるだろう。明確な回答は筆者にも出せない。親なら華子の父親と同様の説得を試みただろうし、結局は細谷医師の述べるとおり本人の意思を尊重せざるを得ないのだろう。
モンブラン
*クローズアップ現代(2010年12月8日放送「ある少女の選択~『延命』生と死のはざまで~」