休日や仕事の合間に農業を楽しむ「週末ファーマー」が急増しているという。その数200万人に達するといわれ、もともと農業を営んでいる農業就業人口の260万人に迫る勢い。女性向けファッション誌までが「農ギャル」向けの特集を組んだり、不動産業者が「貸し農園」を運営するなど新たなビジネスの動きも出ている。
「クローズアップ現代」が岐路に立たされている日本の農業のなかで存在感を増しているこの「週末ファーマー」を取り上げた。「低迷する日本農業に新たな風を吹き込むことができるか」というのが狙いだが、さてどうだろうか…。
畑を耕してから出勤
都心の昼休み、ビルの屋上にある貸し農園で野菜づくりを楽しむ女性の姿も目立ってきた。革靴を長靴にはき替え、出勤前に畑を耕す若いサラリーマンもいる。
こうした貸し農園の利用者数はいまや200万人に達しているという。無視できない存在に、これまで農業には無縁だった女性ファッション誌や男性誌までがさまざまな企画を組み、熱い視線を送っている。
不動産業者が貸し農園に参入する動きも広まってきた。都心で借り手のつかない駐車場の一画を貸し農園に改造したところ、月5000円の区画がすべて埋まってしまったというケースも出ている。
こうした「週末ファーマー」ブームの背景にいったい何があるのか。出口の見えない長い不況のトンネルに、家族が食べる野菜ぐらいはせめて自給自足をというわけだろうか。
日本大学生物資源科学部の盛田清秀教授に、畠山智之キャスターが「若い人たちの農業への関心が広がっているようですが、実感されていますか」と聞く。
「食品偽装や農薬使用の問題があり、若い人たちにとって自分の食は果たして健全かという懸念がある。食と農を一体と捉え、食の安全を考える人たちの関心も高まっている」
無農薬の野菜づくりと自給自足の一挙両得ということなのか。
神奈川県南足柄市「農地法のカベ」改革
「週末ファーマー」の人たちのなかには、野菜づくりの魅力が高じて、より広い畑を借りる動きも出ている。ただ、市民が広い農地を借りようとすると農地法の壁が立ちふさがり、下手をすると「ヤミ小作」と言われかねないので要注意という。効率的に作物を作り、経営が成り立つようにする狙いで、地域の農業委員会が農地法に基づいて農地の貸借には一定面積を越えねばならないという基準を設けているからだ。神奈川県南足柄市では、市民が農業に参加しやすくする制度に改めたが、まれなケースで多くの農業委員会が従来通りの基準のままだ。
これに畠山キャスターが疑問を呈した。
「週末ファーマーで農業の楽しさを知り、さらに農地を拡大しようとすると『ヤミ小作』と呼ばれる。これって法律が今の時代に追いついていないということではないでしょうか」
盛田教授はこう答える。
「農地法の基本的な考え方は、農業を専門的に行う経営に農地を集積させるということ。『週末ファーマー』の登場は想定外だった。ただ、昨年の農地法の改正で、農地の貸借基準を変えることもできるようになった。南足柄市のケースはごくわずかだが、ニーズが広がれば無視できなくなる」
大規模農業化を模索する日本の農業政策。その一方で逆行するような「週末ファーマー」の存在も無視できなくなった。このバランスをどうとるのか。盛田教授は「日本の農業サポーターとして『週末ファーマー』を考えたい。新しい生き方を求めての流れと思うし、人生のなかで作物を作る喜びのようなものを組み込んでいく動きが強まっているのだろう。こういうことが高まっていくことで、日本の農業を下支える力になっていくと思う」という。
果たしてそう単純な話だろうか。「週末ファーマー」による無農薬の野菜づくりが広がれば、専業農家にとって無視できない競合相手になりかねない。
モンブラン
*クローズアップ現代(2010年12月1日(水)放送「『週末ファーマー』200万人の可能性