多剤耐性菌に人間は勝てるのか!?いまのところ打つ手なし

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   抗生物質の効かない多剤耐性菌、アシネトバクターが猛威をふるい始めている。最近では、最強の抗生物質すら効かないより恐ろしいNDM-1遺伝子の大腸菌をもった2例に患者が見つかった。NDM-1は抗生物質が効かないだけでなく、普通の細菌に接触すると遺伝子を伝達し、一気に始末の悪い耐性菌に変化させる。

   この最悪の耐性菌はすでに広範囲に広がっているとみられており、専門家によると「人間が感染症に対し手が出せない、耐性菌が勝利している状態」になっているという。

   耐性菌はどんなメカニズムで生まれ、どこから来たのか。さらに、現在、病院ではどんな対策が講じられているのか、「クローズアップ現代」が追った。

全国レベルで拡大中

   帝京大学附属病院で9月(2010年)、多剤耐性化したアシネトバクターが院内で広がって59人が感染、うち9人が死亡していた疑いが明らかになった。

   アシネトバクター自体は毒性の弱い細菌だが、耐性化すると抗生物質が効かなくなる。その耐性菌がすでに92の病院施設で報告されており、全国レベルで広がっているという。

   今年8月には栃木県の獨協医科大学附属病院で、より強烈なNDM-1の遺伝子を持つ大腸菌がインドから帰国した男性から見つかった。9月にはさいたま市民医療センターで、ここ数年は海外に行ったことがない90代の女性からも同様の遺伝子をもった細菌が見つかっている。

   NDM-1の恐ろしさは、腸の中に生息して入ってきた赤痢やチフスの病原菌に接すると、それらの菌を耐性菌に変えてしまい、抗生物質が全く効かなくなる点だ。

   なぜ多剤耐性菌は生まれたのか。群馬大学の池康嘉教授(細菌学)は「一般的な原因としては抗菌剤と密接な関係がある。抗菌剤の不適切な使用によって耐性菌が増える」という。

   耐性菌は多くの場合、人の体の中で生まれる。医師は目の前の患者を救おうとして抗生物質に頼る。長期間にわたり抗生物質を使い続けると、突然変異が起きて耐性菌が生まれる。耐性菌以外の細菌は抗生物質で消滅するが、耐性菌は生き続け増えていく。これを抑えようと別の抗生物質を使用すると、その薬に対しても耐性を持った菌が出現、複数の抗生物質が効かなくなる。これが多剤耐性菌。つまり病院で作られた最強の菌ということになる。

   実は、帝京大附属病院では過去10年にわたり、各種抗生物質が効かなくなっていった経過を仔細に記録していた。それによると、2005年以降急激に効かなくなっていった経過が明らかになった。しかし、同病院では耐性菌の割合が全国平均の最大6倍に達していることが分かっていても、抑えることができなかった。

足りない対策専門医

「最強の耐性菌といわれるものがこれまで日本で報告されているのはまだ2例。国内の広がりをどうとらえたらいいですか」

キャスターの国谷裕子の問いかけに、取材した科学文化部の田中陽子記者が次のように答えた。

「海外渡航歴のない高齢の女性からNDM-1が発見されたことで、すでに国内で広がっているという見方が大半なんです。2例とも患者を隔離するなどで院内感染は起きていませんが、広がると大変怖い」

   耐性菌に強い新薬の開発は今のところ期待できない状況というなかで、課題は耐性菌をどう封じ込めるか。

   京都大学附属病院では、抗生物質の使用をできるだけ抑制する方向で対応している。また岐阜大学附属病院は耐性菌を広げないための感染制御チームを設け、どの病棟でどんな細菌が検出されたか日々チェック。目に見えない細菌を可視化することによって耐性菌に対する認識を高めている。

   ただ、課題をクリアするには3000~4000人が必要とされている感染対策の専門医が、現在は1000人余りしかいない。それをカバーするために、専門医に不適切な抗生物質の使用を抑制してもらうなどのノウハウを中小病院に提供する対策も検討中という。

*NHKクローズアップ現代(2010年10月20日放送「多剤耐性菌に立ち向かえ」)

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