群れから離れ「反中国」大合唱に馴染まぬ週刊誌ないのか

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   検察批判が止まらない。ここまでの報道を読む限り、大阪地検特捜部の上層部の責任も免れないようだ。また、「大林宏検事総長のクビは時間の問題」(週刊文春)という見方も出てきている。

   この際、三井環元大阪高検公安部長が告発している調査活動費(裏金)問題も含めて、メディアは徹底的に検察の暗部を暴くべきだと思うが、なぜか裏金問題にはどこも手をつけようとしていない。

   起訴されれば有罪率99%という異常な数字は、検察の無謬性という神話に支えられていたのだが、それが崩れ去った今、取り調べの可視化、裁判での全面的な証拠開示など、冤罪をなくすための真の司法改革をメディアが率先してリードすべきだ。主任検事程度のしっぽ切りで、この事件を終わらせてはいけない。

メディアこぞって「右向け右」の危険な兆候

   ところで、日本人が尖閣諸島問題にこれほど関心をもっていたのかと驚く向きも多いと思う。今回の中国漁船船長釈放で、日本中で中国批判の声が起こり、尖閣諸島は日本固有の領土だと大合唱している。

   「週刊新潮」や文春、櫻井よしこ氏や石原慎太郎都知事が声を荒げるのはわかるが、比較的中間にいると思われる週刊誌まで反中国を声高に叫んでいるのは、いささか危険な兆候ではないか。

   櫻井氏は「尖閣列島で譲歩すれば中国は次に沖縄を奪りにくる!」(週刊ポスト)と主張している。石原都知事も同様である。

   石原都知事は自分は核保有論者になったと表明し、こう語っている。

「仮に日本が核を保有していたら、こんな事態にはならなかった。核保有の日本が戦争を始めたら、アメリカは困るから助ける。アメリカは自分が囲ってきた妾が、他の誰かの方へ行くよりはいいと考えるだろう。日本人はまず屈辱を感じないとね。それが怒りに転じて、自分のことをどうするのか具体的に考えるようになる」(新潮)

   こうした極論が出てくるのは、もちろん中国側の恫喝とも思える対日圧力があるが、菅直人総理と仙谷由人官房長官の場当たり的な無為無策外交に対する批判が、背景にある。

   文春によれば、中国人船長を釈放した2日後、大相撲千秋楽で優勝した白鵬に内閣総理大臣杯を授与しようと土俵に上がった菅総理に、「すさまじい罵声が飛び交った。それは、『売国奴』というものだった」

   新しいところでは2005年に、歴史教科書問題や日本の国連安保理常任理事国入りの動きで、韓国や中国で反日運動が起きたことはあったが、最近の日本でこれほどまでに反中国感情が高まったことはなかった。それには、GNPで中国に抜かれたこと、日本企業や観光地を買収し始めたこと、中国人観光客が激増してきたことなどがバックグランドにあるのではないか。

   韓国はもちろんのことだが、中国への対抗意識が根強い日本人にとって、中国に経済大国の地位まで奪い取られたという屈辱感が、石原都知事のいうように、潜在意識に火をつけたのかもしれない。

   こうしたときこそ、政治が素早く動き、大過にならないように話し合いをするべきなのだが、菅総理、仙谷官房長官、前原外務大臣には荷が重いようだ。

   週刊誌というもの、メディアの多くが中国と絶交だ、戦争だと右を向いているとき、一人群れから離れ、違う方向を指し示す役割が重要である。それをどこの週刊誌が担うのか、期待して見ていたい。

 

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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