<悪人>長崎の漁村に生まれ、祖父母に育てられた清水祐一(妻夫木聡)。土木作業員として働き、職場と家、祖父の病院を行き来するだけの毎日を送っていた。同じく佐賀の紳士服店で働く馬込光代(深津絵里)も、ただ家と職場を往復するだけの平凡で寂しい毎日を送っていた。ともに「誰かに本気で出会いたい」と願いながら…。
二人はある日、「出会い系サイト」によって知り合う。ところが、祐一にはその時すでにある秘密があった。連日ニュースで取り上げられている「OL殺害事件」。その犯人こそ、祐一だったのだ。監督は映画「フラガール」の李相日。原作は吉田修一の同名小説。
ちょっとしたキッカケでだれもが「悪人」
誰が本当の悪人だったのか。そんなテーマなのだけれど、それを決めることは非常に難しい。劇中、誰もがこの殺人事件の中で、悪人になりえたのではないかと思うからだ。
事件の被害者である石橋佳乃(満島ひかり)を実に身勝手な理由から、夜の山道に車から蹴り出し、置き去りにした大学生、増尾圭吾(岡田将生)。出会い系サイトで祐一と知り合い、自身の裸の動画を携帯電話で撮らせ、自分と会うための金銭を要求していた佳乃。山道に置き去りにされたとき、助けようとした祐一に罵声を浴びせた。そんな佳乃を発作的に殺してしまう祐一。
彼を捨てた母親に代わり、彼を育てた祖母・房枝(樹木希林)。祐一を殺人者と知りながら本気で愛し、何もかも捨て一緒に逃げる光代。さらに言えば、「出会い系サイト」。サイトがなければ、祐一と光代も出会うことはなかったが、事件も起きなかった。
主人公・祐一を演じた妻夫木聡の冷たい心の人間「祐一」から、光代と出会い、人間味のある「祐一」に変っていく様は彼の演技の力量を感じる。また、深津絵里演じる光代の「誰にだって、そういう気持ちになることがある」という言葉は、光代のような人生を送る女性の大きな共感を得ただろう。
殺害後、無残な姿で発見された被害者・佳乃が、亡霊となって現場である山道のカーブに現れるシーンがある。どしゃぶりの雨の中、それは父親である石橋佳男(柄本明)の前で起こった。無言で立ちすくむ彼女に歩み寄り、佳男は彼女の頭を撫でて言った。
「……お前は何も悪くない。お前をこんな目に遭わせた奴を俺は絶対許さない」
殺人事件の「被害者」と「加害者」。どんなに被害者に非があったとしても、残された者にとって「加害者」はどこまでいっても「悪人」でしかないのかもしれない。佳男の言葉がこの作品の中でもっとも胸をうつ。しかしながら、結局は誰が悪人なのか、観た人それぞれで違うという映画である。
PEKO
おススメ度 ☆☆☆