不快指数満点の演技
さらに、観客を引き込む場面展開の上手さもさることながら、俳優陣の演技も見応えがあった。とくに世界的な映画祭で受賞した深津、初の悪人役という妻夫木は、この作品で新境地を切り開いたように感じられた。祐一も光代も内向的な性格のため、台詞は決して多くない。そのぶん両者とも身体での感情表現がすばらしかった。愛が刹那的なものから永遠的なものへと変化していくさま、やっとつかんだ幸せをかみしめた瞬間とそれを手放さなくてはならない瞬間の心理が、眼差しの強さや顔のシワ、相手を抱き寄せる力強さなどから痛いほど伝わってくる。満島(佳乃)と岡田(増尾)ら若手俳優も、日ごろの爽やかなイメージからは想像できない不快指数満点の演技。期待していい。
本当の「悪人」とは誰なのか。最後まで観ても答えは用意されていない。傍若無人な増尾の言動に疑問を抱く同級生、打ちひしがれる祐一の祖母に「しっかりしなさい」と声をかけるバス運転手などの存在にかすかな救いがある。美しくせつないラストもいい。
バード
オススメ度:☆☆☆☆