<悪人> ある冬の夜、福岡の保険会社に勤めるOL・石橋佳乃(満島ひかり)が殺された。警察は当日一緒にいた金持ちの大学生・増尾圭吾(岡田将生)を疑うが、捜査を進めるうちに、長崎の土木作業員・清水祐一(妻夫木聡)が真犯人であると断定。佳乃と祐一は出会い系サイトで知り合い、関係を持っていた。
警察が行方を追うなか、祐一は同じく出会い系サイトで出会った佐賀の紳士服量販店で働く馬込光代(深津絵里)を車に乗せて逃亡。罪の意識から一度は警察に出頭しようとする祐一だったが、それを引きとめたのは光代だった。
出会い系サイトで売春するOL
2007年に第61回毎日出版文化賞と第34回大佛次郎賞をダブル受賞した芥川賞作家・吉田修一の小説を映画化。10人の映画監督が映画化を熱望し、20社以上にわたる映画化権争奪戦となり、本作は監督を『フラガール』の李相日が、脚本を李と吉田が共同で担当した。音楽には巨匠・久石譲が参加し、主題歌を作曲。日本公開前にヒロイン役の深津絵里がこの映画で第34回モントリオール世界映画祭の最優秀女優賞を受賞したことでも話題を集めている。
物語は祐一に殺されたOL石橋佳乃の生前の場面から始まる。佳乃は社会的には普通のOL、親から見ればまだまだ甘ったれのかわいい娘。だが、裏では出会い系サイトで売春行為をしていた。娘を失って初めて実態を知った佳乃の父(柄本明)、孫が殺人犯だとは信じきれない祐一の祖母(樹木希林)、被害者家族と加害者家族では立場は大きく異なるのに、いずれも社会の注目を浴びながら、なす術もなく打ちひしがれる様子は共通して痛々しい。
スクリーンは、そんな両家族の場面から、逃げる祐一と光代、そして罪を免れ被害者をあざ笑う大学生へとテンポよく切り替わり、それぞれの「今」を映し出す。本当に悪いのは加害者だけなのか、「悪人」とは誰なのか。場面が切り替わるごとに、そう簡単には答えの出ない難問を突きつけられているようで、観ている方も思わず眉間にしわが寄る。気分が重くなることは覚悟しておいた方がいいだろう。