料理シーン、食卓シーンで描く人間関係
大竹しのぶを母親役に抜擢した理由も、娘と友だちのような関係ということなら、大きくうなずける。陽子の「月ちゃーん」はこの他にも要所要所で出てくるのだが、助けを呼ぶような陽子のそんな呼びかけの中に、月子の居場所も見えてくるような安心感すらある。
月子と陽子の親子を支える周りの人々との温かい交流が見えてくる料理シーンや食卓シーンもこの映画の見どころの一つだ。とくに台所という場所を上手く使っている。陽子と研二、月子と研二、そして月子と陽子、それぞれの組み合せで料理を作ることになるのだが、料理という共同作業で互いが繋がりを強めていく様子はたしかに納得できる。
映画の締めくくり方なども含め、全体に共感の持てる作品だったが、月子が抱える過去のトラウマシークエンスに、そこだけ違う映画のような違和感を覚えた。親子の物語に絞っていたのに、回想に陽子が出てくることはなく、そのとき何をしていたのか分からない。娘のピンチのときも、研二とよろしくやっていたのか。余計な詮索をしてしまった。
野崎芳史
おススメ度☆☆☆