ことし(2010年)の夏ほど「熱中症」という言葉を見聞きする年はない。NHK調べでは、梅雨明けから8月末までに4万6000人余が病院に搬送され、475人が死亡している。受診した人の100人に1人が死亡しているわけで、これは大騒ぎした新型インフルエンザなどよりもずっと高い。いまやきわめて危険な「疾患」というわけである。なぜ熱中症は死に至るのか。
<体温が上昇し脱水症状で血液中の水分が減ることで血液の循環が悪くなり、その結果、臓器がダメージを受ける>
国谷裕子キャスターはそう説明する。死者の4分の3が70歳以上の高齢者。番組は高齢者の割合が多い原因を探った。
汗もかかず、高温感じにくくなる高齢者
大阪国際大学の井上芳光教授らの調査によれば、若者は1600ワットの熱さで「熱くなった」と気づくのに、高齢者は3000ワットまで感じなかった。熱さを感じる神経の働きが衰えているらしい。
「老化すると皮膚の温度を感じにくくなる。高齢の方はクーラーを入れるのが遅れる。夜、クーラーを入れずに寝込んでしまう。体温の下がる暇がない」(井上芳光教授)
これが夜間に高齢者に熱中症が多発する理由の1つ。もう1つは、都市の住宅環境にあると番組は指摘する。団地のような気密性の高い住まいで危険は増す。慶應大学の伊香賀俊治教授らがシミュレーションしたところ、ある団地では夜間の外気温が29度のとき、室内の温度は30度、高齢者の体温は38度まで上がった。体温が上がる原因は湿度の高さだという。人間は汗を蒸発させて体温を下げる。が、湿度が高いとそれができにくい。暑さを感じないうえ、汗もかかず体温は上がる。
「夜の室内の状況は猛暑日の昼の状態と同じくらい危険」(伊賀屋教授)
熱中症が最も多く発生するのが、夕方5時から翌日の朝5時までであることと符合する。むしろ夜間の方がリスクは高いといえる。
危険ゾーンは「室温28度 湿度70%」以上
どんなところに気をつけて対策を取ればいいのだろう。
スタジオゲストの三宅康史・昭和大学医学部准教授はこうアドバイスする。「活動性が高くない高齢者は、周りの方も気づきにくいが、元気がなく、食欲が落ちて、意識が朦朧としていたら早めに受診してください。温度は28度、湿度は70%より低く保つことです」
エアコンは必須なのだが、そう単純な話でもない。クーラー嫌いの年配者は少なくなく、身内がこまめにコントロールしてやれればいいが、家庭によってはそうもいかない事情もある。
生活保護を受けるひとり暮らしの高齢者の中に、エアコンを購入できないないため体調を崩す人が後を絶たないという。支援するNPOが費用を立て替えてエアコンを設置した例も紹介されたが、NPOができることには限りがある。あるNPO代表の男性は、「熱中症で亡くなる方が増え続けるのではと危惧している。社会全体で考えてほしい」と語る。「所在不明の高齢者」問題を思い起こさせる。行政が向き合うべき課題なのかもしれない。
三宅准教授は「冬のインフルエンザ同様、夏の熱中症も多くの死者を出す。日本の夏はステージが上がって危険な夏になっている。ことしを熱波元年と捉えて、来年以降、総合的な対策が必要だ」と警告する。
アレマ