北朝鮮の金正日総書記が突然、中国東北部の故金日成主席ゆかりの地をおとずれた狙いは何なのか。専門家は後継者の体制づくりを加速させていることと密接な関係があると指摘する。
その後継者に内定しているとみられているのが3男、金ジョンウン。今月上旬にも開催が伝えられている「朝鮮労働党代表者会」がジョンウンのデビューの場になるのではと注目が集まっている。
クローズアップ現代は大詰めを迎えている北朝鮮の後継者擁立の動きを探った。
国内ではすでに「周知徹底」教育
ジョンウンは現在20歳代後半で、スイスに留学していたという以外、経歴は明らかになっていない。対外的にはまだ無名の若者である。
しかし、北朝鮮の国営メディアを24時間チェックしている「ラヂオプレス」の三嶋信行主任は、「北朝鮮では『後継者・ジョンウン』を窺わせる動きは今年初めからあった」と指摘する。
たとえば、今年1月8日、朝鮮中央テレビが突然、祝賀の歌を流した。この日はジョンウンの誕生日で、それを祝うための歌だったという。すでに、昨年から教育の場や職場を通じて、ジョンウンの名前を後継者として周知徹底させる動きが始まっていて、北朝鮮国民は誰もが知っているらしい。こうした後継者擁立の準備は大詰めを迎えており、朝鮮労働党代表者会は「最後の詰め」とみられている。
そもそも党代表者会は過去2回しか開かれていない。最初に開かれたのは52年前の1958年。金日成がこれを契機に反対派の粛清を行い独裁体制を固めた。
2回目は44年前の1966年。開催直後に組織が変更され、金日成が総書記に就任している。いずれも重要人事が行われ体制固めの場となった。今回の党代表者会ではほころびが目立っている労働党を人事面で手直し、後継者体制を固める狙いがあるとみられている。
現在、党の執行部である党中央委員会は、委員140人中72のポストは死亡や失脚で空席になっており、形骸化している状態という。党代表者会では機能不全に陥っている党中央委員会のメンバーを刷新するとともに、メンバーの中から重要ポストである政治局常務委員を選ぶとみられる。
政治局常務委員か書記で登場
北朝鮮の動向をウオッチしている慶応義塾大の磯崎惇仁専任講師は次のように見ている。
「大方の見方は、(ジョンウンは)最低でも党中央委員に選ばれ、初めて公式メディアに名前が登場するのではないかというものです。
もしかすると、30年前に金総書記がデビューした時のように、政治局常務委員や書記になるかもしれません」
ただ、それには越えなければならない壁もある。一つは疲弊した経済の打開。もう一つは後ろ盾の中国に後継問題を理解してもらうこと。中国は30年前、後継者に金総書記が決まった時、不快感を持ったという。当時、人民日報に「世襲は共産主義の理念に反する」という社説が掲載されたぐらいだ。
今回の金総書記の中国訪問は、金日成ゆかりの地を訪ね、「血筋」の重要さ、正当性を国内向けにアピールする一方、中国からの「認知」を得る狙いだったという。
金総書記は中国の胡錦濤国家主席に、「両国の友好関係を代を継いで強化発展させる」と述べるなど、「代を継いで」を連発して後継者問題に理解を求めたという。これに対し、胡主席は表向き「党代表者会の成功を祈る」とだけ語ったと伝えられている。
キャスターの国谷裕子は「スイスに留学した経験のある3男が後継者かどうかまだ分かりませんが、次の後継者の時代に、北朝鮮が開かれて、まわりの国と協調する国になって欲しいですね」とコメントした。
拉致問題を抱える日本としてはそう願いたいところだが、現実はそう甘くはないようだ。礒崎専任講師は「私もそれを希望しますが、父親を否定することはできないでしょう」と言い切った。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2010年9月1日放送「北朝鮮 後継者は登場するのか」)