死刑は究極の国家権力の行使といわれる。決めるのはこれまでは裁判官だったが、裁判員制度の導入で、一般市民も携わることになった。しかし、死刑について、どれだけ 知っているか。
先週27日、刑場が初めてメディアに公開された。「死刑について、国民的議論を喚起したい」とする千葉法相の意向である。見せられたのは、教誨室、執行室、立ち会い席など施設の一部だったが、死刑囚が最後に立つ踏み板、ロープをかける滑車は、やはり衝撃的だった。
死刑を覆うベールは厚い。つい平成10年までは、発表されるのは年間執行の件数のみ。これが当日の人数になり、名前が出るようになったのは、平成19年からだ。執行は当日、本人に告げられ、家族への連絡は執行後だ。事件の被害者には執行の事実すら知らされない。
現在死刑囚は107人いるが、執行数は年によってまちまち。判決から40年にもなる死刑囚もいれば、1年足らずの執行もある。どのようにして執行順を決めるのかもわからない。
元刑務官「命を奪っているという感覚だった」
執行の様子を2人が語った。元検察官が見たのは、4人殺害事件の犯人だった。落ち着いていて、教誨室の仏壇に手を合わせ、目隠しをして手錠をかけられ、踏み板が落ちた。ガラス越しで音は聞こえず、「実感はなかった」と言う。
元刑務官は「いまも忘れられない」と言った。強盗殺人犯だった。執行室では3人が脇に立つ。踏み板が落ちたとき、死刑囚の体がはげしく揺れたので、思わず手でロープを握った。「命を奪っているという感覚だった」と語った。
長く裁判を担当したNHK社会部の堀部敏男デスクはこう報告する。
「アメリカでは事前に家族と面会もでき、被害者やメディアの立ち会いもある。日本でも裁判員制度では情報公開を考える必要がある」
法務省はようやく死刑の存廃、執行のあり方、情報提供てら検討とする勉強会を立ち上げた。ただ、死刑そのものについては「やむを得ない」とする声が85.6%(09年内閣府調べ)あって、年々この数字は増えている。専門家も「廃止をいう状況にはない」というが、執行のあり方、情報提供の検討は急ぐべきだろう。
執行停止求めた被害者遺族の複雑な感情
日本ではとりわけ被害者が置き去りだ。10年前、24歳の長女を殺された立川正己さん(栃木)は先月28日、刑の執行をメディアから知らされた。宝石店の店員6人を縛り上げて放火した犯人は、最後まで反省を示さなかった。いまも「許せない」という立川さんだが、「これで気持ちの整理がついた」と言う。
原田正治さん(愛知)は少し違った。27年前、5歳下の弟が保険金目当てに雇い主に殺された。「絶対に許さない」と刑務所を訪ねた。犯人は頭を下げ、謝罪した。 これで気持ちの整理がついた。以来、手紙のやりとりが糧になった。原田さんは刑の執行停止を国に求めたが、その8か月後、執行された。「すべてが終わった」と言う。考えさせられる話だ。
世界をみると、死刑存続国は58か国日本、アメリカなど)だが、停止・廃止は139か国(英国、フランスなど)。廃止論の多くは人道上の理由とえん罪の懸念。多数派の国々はすでにこの論議を終えていて、死刑が犯罪防止になるという論も否定されているのだそうだ。
それにしても、日本で死刑支持が8割を超えるのはなぜだろう。近年残虐な事件が多いか らか。まだまだ死刑は他人事だからか。おそらく、長い長い論議になるのだろう。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2010年8月30日放送「死刑 あなたは知っていますか」)