1本のテープ――。
「姉さん、 長いことありがとう。子どものこと女房のこと頼みます」
泣き崩れる姉の声。
「姉さん、笑って別れましょう」
55年前、大阪拘置所の所長が、禁を犯して録音した死刑囚の最後の声だった。当時は刑の執行が事前に伝えられ、家族との面会も許されていた。その面会の様子から刑の執行までを、所長が実況録音していた。
「帷子が着せられます。手錠がかけられました。執行…14分2秒。終わり」
現在は本人に刑の執行が伝えられるのは当日、家族には執行後だ。死刑囚にも、立ち会う関係者にも、執行のボタンを押す刑務官にも、心理的な負担は大きい。裁判員制度によって、一般の人もこれに関わるようになる。この秋以降、死刑求刑の可能性のある事件は4件という。
死刑「容認論と凶悪犯罪抑止効果」
先週金曜日(27日)、東京拘置所の死刑執行室が報道陣に公開された。裁判員裁判で死刑判決が予想されるなか、千葉法務大臣が死刑について国民的な議論が必要と考えて、踏み切ったものだ。千葉は「死刑廃止論者」で知られるが、先日、2件の執行を命じた。
死刑はやむをえないという声は年々増えていて、94年には73.8%だったものが、2009年には85.6%になっている。
鳥越俊太郎(ジャーナリスト)は、「残酷な事件が多いのと、被害者の声が伝えられるようになった結果だと思う。死刑には一概に反対ではないが、えん罪がある。戦後4人、死刑確定から無罪になっている。えん罪のまま死刑執行された人もいるのではないか。アメリカのように、本当の終身刑を考えてもいいのかも」という。アメリカもすべての州で死刑が廃止されているわけではない。
吉永みち子(作家)「死刑で凶悪犯罪が抑止されるという主張があるが、死刑がなくなったら本当に凶悪な事件が増えるのかどうか」
田中喜代重(弁護士)「学者の間では抑止効果はないとされている」
ハムラピ法典だかなんだか、「目には目を」から始まっている人類の法制度だが、えん罪だけは避けたい。自白偏重という捜査手法が昔から変わらないという問題がある以上、この懸念はなくならない。文明の進歩とは何なのか、あらためて考える。