【総評】スカウトの注目は誰だ? 夏の甲子園、興南優勝で閉幕

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    2010年の夏の甲子園は、決勝で興南が東海大相模を13対1で下し、春夏連覇という形で15日間の熱闘に幕を閉じた。春夏連覇は史上6校目の偉業。松坂を擁した横浜以来12年ぶり。沖縄に深紅の大優勝旗がもたらされるのは初めてのことだ。

    選手権大会である夏の甲子園は、選手たちにとってプロ野球をはじめ今後の進路への登竜門である。とりわけ注目されるのは「プロへの素材」。甲子園球場のネット裏にはプロ野球各球団のスカウトが顔をそろえ、“明日のスター”を狙っていた。どんな選手がそのメモに記されているのか。

    プロ野球側が獲得への前提とするのは「将来の可能性」。その見極めがスカウトの目なのである。たとえば、敗戦投手になっても三振15を取っていたら、そのピッチングが評価される。1回戦で姿を消したチームでも、大きなホームランを打った選手はマークされる。それと日頃のチェックを参考にしてドラフト会議に進む。

    2つの例を挙げよう。大リーグのスター選手となっているイチローと松井秀喜。松井は甲子園大会で本塁打を打ち、1試合敬遠5という“伝説”を残したことは有名である。こういう選手はテレビで放映されているからだれでも知っている実力の持ち主だ。イチローは外野手と投手だった。甲子園でプレーしたが、どんな選手だったかほとんど知られていない。獲得した球団のスカウトは「打者として使える」と判断したのであって、スカウトの目が生んだ大成功の例といえる。

優れたスカウトはターゲットの家系も調査

    「たとえば高校生の投手を見る場合、プロ野球で活躍している投手と比較しながらピッチングを確かめる。打者も同じだ。そうするとレベルが分かる。高校生は“伸びシロ”があるから、その程度をどう見抜くか、だ」とベテランのスカウトたちは言う。あまり知られていないが、優れたスカウトはその選手の家系を調べあげ、運動選手がいたか、体つきはどうだったか、などまでチェックする。遺伝的要素も選手の将来性への判断材料に付け加えていくのだ。

    プロがもっとも欲しがるのは、まず投手。見るポイントは(1)スピード(2)良い変化球(3)コントロール(4)頭の良さ(5)守備力、である。大リーグで活躍する松坂(横浜)は球威があり鋭いスライダーを投げ、守備も優れていた。その前のヒーロー桑田(PL学園)は条件のほとんどを備えていた。バント処理のうまさを見てスカウトが「あの守備だけでモノが違うことが分かる」と言ったほどだった。現在、日本ハムでエースのダルビッシュ有(東北)は(1)(2)で優れていた。

島袋筆頭に、大型投手に期待もてる

    今大会の選手たちに目を向けよう。春夏連覇の立役者、興南の島袋は「商品価値」もあるからプロとしては欲しい素材だ。球威は150km/h近くある。そしてなによりも抜群のスタミナに驚く。回を重ねるほど、球数が増えるほど球威が増す。これはプロの厳しい練習にもついていける素質だといえる。また、今大会には大型投手が多くいる。広陵の有原は魅力十分。初戦で姿を消したが、身長187cmから投げ下ろす速球は高く評価されるだろう。同じような長身のタイプで佐賀学園の峰下、大分工の田中が目についた。左腕では仙台育英の木村に将来性を感じる。

    投手とともにプロが必ず補強するのが捕手。「プロで10年やって一人前」といわれるほどの重要なポジションである。西日本短大付の金子は打撃もいい。長崎日大の山下もいい。明徳義塾の座覇は打力に非凡なものをもっている。

「超高校級」不在の中、魅力ある打者は?

    打者は「超」のつく大物は見当たらなかったが、その分、脇役として使える好選手が多くいた。一押しが興南の主将で三塁手の我如古。左打者が半数を占めた大会だったが、右打者としては傑出した働きを見せた。スイングの鋭さは大会一だった。チャンスを広げるときや得点圏での打席では右方向へ痛打を放つ。空振りがほとんどないので、いわゆる使い勝手のいい選手である。決勝では左中間にホームランを打ち込むなど引っ張ることもできる。

    関東一に二人の好選手がいる。右の宮下三塁手と左の山下二塁手でともに2本塁打を記録した。とりわけ宮下は180cmの大型だ。大型選手は他にもいる。明徳義塾の北川左翼手は185cm、履正社の山田遊撃手と鹿児島実の川崎はともに180cmだ。聖光学院の斎藤英三塁手も長打力の持ち主だ。早実の3、4番コンビ安田、小野田も魅力がある。東海大相模の一二三は投手としてより打者として注目されるだろう。

    このオフのドラフト会議でどう指名されるか。言えるのは、今年も高校球児は「数年後の戦力」として獲得されるだろう、ということ。現在、一軍で活躍するヤクルトの由規(佐藤、仙台育英)、ロッテの唐川(成田)、広島の前田健(PL学園)らもファームで鍛えられた。昨年の甲子園を沸かせた西武の雄星(菊池、花巻東)は修業中である。打者では日本ハムの中田(大阪桐蔭)がようやく一軍で先発出場するチャンスをつかんだ。彼らのように早く一軍入りする選手もいれば、甲子園の活躍がウソのように消えていく者も少なくない。高校生は5年勝負-といっていい。

菅谷 齊


菅谷 齊(すがや・ひとし)プロフィール
1943年、東京生まれ。法政大学卒。法政二高硬式野球部時代に甲子園で夏春連覇(1960,61年)を経験。共同通信社ではプロ、アマ野球、大リーグを主に担当。84年のロサンゼルス五輪特派員。プロ野球記者クラブ、野球殿堂入り選考の代表幹事を務める。野球技術書など著書多数。現在、日本記者クラブ会員(会報委員会委員)。

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