取材秘話・フラッシュバック(12)
甲子園でプレーする選手たちの究極の目的は、真夏の選手権を象徴する「深紅の大優勝旗」を手にし、地元に持っていくことである。それが全国制覇、日本一の証…。連日の激しく厳しい練習はそのために行う。
たった一つの学校にしか与えられない優勝旗は、現在は大会中、貴賓室に置いてある。決勝の日まで若人の戦いぶりを見つめている。
高校野球の歴史に残る決勝での18回引き分け、再試合を演じた三沢-松山商(1969年、第51回大会)の頃のことである。ふと「優勝旗はどこにあるのかな」と思いついた。そこで甲子園球場で事務所に尋ねると、女性職員が案内してくれた。「ここの中です」と教えられたのは狭い物置だった。引き戸を開けると、すぐそこに立てかけられてあった。歴代の優勝校のリボンがたくさん垂れ下がった、まぎれもない優勝旗だった。当時は、狭い物置でひっそりと最終日を待っていたのである。