【取材秘話】用具メーカーのロゴは見えてはいけない?

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取材秘話・フラッシュバック(9)


    野球の用具や道具を扱うスポーツメーカーにとって、高校野球の甲子園大会は非常に大きな宣伝媒体である。「なにしろ高校野球は試合をテレビで全国放送してくれる。最高のCM効果が得られる」とメーカーの担当者は口をそろえる。スポーツの大会はほかにも数多く開催されるが、全試合全イニングがテレビ中継されるのは高校野球だけである。

    そんなメーカーの“CM合戦”にブレーキをかけているのが高校野球連盟の規制。選手たちの使う用具でメーカーの商標ロゴが分かるのはグラブとバットぐらい。グラブは手首の部分にロゴが刺繍されており、刺繍はこの1か所だけで、マークの大きさ、色も決められている。バットはカラーが制限されていて黒、濃い茶など。

    こんなウソのような話がある。選手が試合中にタイムをとり、ストッキングやベルトを直すことが少なくない。そのとき、ストッキングやベルトに付いているロゴがテレビに映った。すると高野連から学校に対し「ロゴが見えないように」と指摘された、という話を聞いた。それを防ぐため「高校野球用のストッキングに付いているロゴは足の下の部分でスパイクの中に隠れる」と運動具店の話。帽子も無地である。メーカーは用具や道具によって高校野球用と市販用の両方を作っているのが実情だ。

    もっともよくテレビ画面に映るユニホーム。プロ野球では上着の胸の部分にメーカーのロゴがすぐ分かるが、高校野球では表面に一切ない。捕手のプロテクターにも付いていない。あと、メーカーのマークが分かるのは、試合が終わり選手がグラウンドから去る際に持つバッグのもの。このシーンは勝者も敗者も必ずテレビに映る。

    現在、ほとんどの学校の野球部には特定のメーカーが地域の運動具店を通じて出入りしている。学校にとっても一つのメーカーのほうが便利だからで、これは効率性から考えても当然だろう。

    ケバケバしさがなく、高校生らしいさわやかさが伝わってくるのは規制のおかげである。CMを背負う高校野球は勘弁してくれ、だろう。

菅谷 齊


菅谷 齊(すがや・ひとし)プロフィール
1943年、東京生まれ。法政大学卒。法政二高硬式野球部時代に甲子園で夏春連覇(1960,61年)を経験。共同通信社ではプロ、アマ野球、大リーグを主に担当。84年のロサンゼルス五輪特派員。プロ野球記者クラブ、野球殿堂入り選考の代表幹事を務める。野球技術書など著書多数。現在、日本記者クラブ会員(会報委員会委員)。

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