「葬送」から「送別」への変化
ゲストは哲学者・山折哲雄さん。
「しみじみとした葬儀でした。和解の境地、それを全員が分かち合うことができた」
昔は「葬送」といっていた。天国か浄土か、漠然と魂を送ると考えていた。それがある時期から、「送別」と呼ぶようになった。別れを強調するようになって、死とどう向き合うかが、逆に大きな問題になり、あらかじめ考えるようになった、と山折は言う。
日本人の死生観と関わる。長い間、日本人は人生50年でやってきた。死と生は同等で、死を意識することで生きることを考えてきた。それが人生80年になって、「生」と「死」の間に、「老」と「病」が入って来て、まだ対応できていない。長生きしたために、成熟した人生を生きる知恵が必要になった。そこで「さあ、死とどう向き合うか」となっている。
仏教の「無常観」がある。形あるものは滅び、永遠はない。人は必ず死ぬ。これを受け入れながら、生きる支えにもなった。力強く生きていく作用をもった価値観だったと思う。これがいま問われているのだと。
不思議に静かな気持ちで耳を傾けていた。むかし、老人施設に「死を恐れることほど愚かなことはない」とひとりつぶやく老人がいた。恐れているのか、生への執念か。妙に哀しかったことを思い出した。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2010年8月2日放送「『お葬式』は生きているうちから」)