ビジネスにおもてなしの心? その神髄は茶の湯にあり? ますますわからない。だが、そうして海外ビジネスに動き出している企業があるのだという。
石川県和倉温泉の老舗旅館「加賀屋」は、台湾企業と共同でこの11月、台湾に旅館を開業する。加賀屋は純和風の部屋、料理とならんで客室係のもてなしが伝統だ。いま研修の最中だった。みな大学でホテル経営などを学んだ台湾の若者だという。
客は海外からの団体だった。食事中に2人の女性が刺身に手を付けていないことに指導のベテラン仲居が気づいた。研修生に聞かせると、「食べられない」という。調理場とはかって代わりに天ぷらを用意させた。
気配り、主客が互いを敬う心、客が発する手がかりから「客に何が必要かを自分で考えること」が欠かせないことだという。和風旅館だから何となくわかる。が、これが台湾人に根付くだろうか。
資生堂「商品売る前に客の悩みを聞け」
全く別の業種にも「もてなし」を重要視する企業があった。中国で30年になる資生堂の上海のデパートの店は、客に商品を勧める前に客の悩みを聞く。客と同じ目線で、何がいいかを考えるのである。
実は、接客指導は主戦場になりつつある地方の販売戦略のカギだという。その地方の実例――。20代の客が肌荒れの悩みで来店した。販売員の女性はさっそく商品を選んで勧め、客は買って帰った。が、販売指導員からは「悩みの相談に乗るように」と指導が入った。客と対等に接すること。つまりが「もてなし」がきちんとしていれば、無理に商品を勧めなくても結果はついてくるというのだ。
こうした考えは、経済効率、売り上げ至上主義、合理性一辺倒への反省からきている。モノから心へ。思いやり、もてなしは日本の文化だが、それが失われていた。「それを取り戻したいという考えだ」と、同志社女子大の山上徹・特任教授は言う。日本ホスピタリティ・マネジメント学会の会長でもある。
「ビジネスとは矛盾しないのか」とキャスターの国谷裕子が聞いた。
「難しいが可能だ」と教授。形だけでなく、精神面までいく。基礎から入って、殻を破り、自分流を確立する。「茶の湯の守・破・離の精神、これがキーワード」だと言うのだ。