難病治療の決定打「iPS細胞」で世界1目指す京大研究所

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   番組中、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘う男性患者(62)の姿が映される。運動神経を冒された患者は瞼と眼球を微かに動かして、奥さんが持つ透明な文字盤に自らの意思を伝える。「奇跡が起こるかもしれないから希望を持って……」。夫妻が待ち焦がれる「奇跡」「希望」とは、iPS細胞を用いたALS治療薬の開発だ。

   iPS細胞の生みの親、山中伸哉・京都大学教授は「難病は1つの遺伝子の異常で起こる場合も多い。iPS細胞が最も力を発揮できるところ」と話す。iPS細胞はあらゆる組織、臓器の細胞をつくり出せるという。その技術を利用すれば、人間の皮膚から運動神経をつくることができ、直接、薬の効果を試せる。難病の治療薬の開発だけでなく、がん、アルツハイマーなどの病気解明の期待も担う。21世紀の医療を切り開く存在といえよう。

   国際間の競争も激しい。アメリカ中心に次々と論文が発表され、ことし(2010年)1月には、アメリカのベンチャー企業がiPS細胞に関する特許をイギリスで取得したという。海外での特許争いに日本が遅れる形になった。

   当然、莫大な利益も見込まれる。アメリカでは企業や投資家が雪崩を打っているという。ファンドも組まれているらしい。

各国が熾烈な開発・ビジネス化競争

   こうした中、この5月、京都大学iPS細胞研究所が設立され、山中教授が所長に就任した。iPS細胞を総合的に研究する世界初の施設だという。ここでは130人の若いスタッフが、基礎研究、臨床応用、規制科学、知的財産・広報の4部門で、それぞれの課題に取り組んでいる。

   山中は次のように語る。

「思いもよらないアイデアは若い方が出やすい。早く若い人が自分のアイデアを自分でできる環境にしないといけない。若い部隊をたくさんつくりたい。
(4部門で出される成果は)足し算ではなく掛け算。1つでもゼロがあるとゼロになってしまって患者さんの元へ届かない。総合力でここでしかできないものをつくって世界一にしたい」

   国谷裕子キャスターが「世界一を目指す思いの原動力は?」と尋ねると、山中は「短い期間だが臨床医だったことが大きい。医者であることを忘れたくない。最後は役に立ちたい」として、こう結んだ。

「ひとりの人が行う基礎研究で新しい治療薬ができるのは簡単ではない。私たちは幸運にもiPS細胞に出会った。役に立つところまで持っていくのは、この技術に出会ってしまった私たちの義務以外の何物でもない。できるところまで必死にやろうというのが私たちの思いだ」。

   研究者であると同時にゼネラル・マネージャー役も果たさなければならないリーダーの苦労がしのばれた。iPS細胞研究の成果を待つ患者、そして「世界一」を目指す研究者のために、行政刷新担当相は仕分けには十分注意を払ってほしい。

アレマ

NHKクローズアップ現代(2010年7月15日放送「目指すは『世界最高』iPS細胞・山中教授に聞く」)

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