遅筆堂「井上ひさし」の苦闘 やっと書けた「ある台詞」

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客席ひとりひとりの問題

   やはり井上作品を数多く手掛け、番組にゲスト出演した新国立劇場の鵜山仁・芸術監督は、井上が生み出す言葉の重みについてこう述べた。

「井上さんのことばは、われわれ一人ひとりにとって、大事なことばだと思わせてくれる力がある。ご自分にとっての戦争体験、生き方の問題、人間関係を、巧みなやり方ではありますけれども、真摯にことばにされたことが客席一人ひとりの問題であるかのように伝わってくるというのが実感です」

   番組では触れなかったが、病床で記した「絶筆ノート」(文芸春秋7月号)に次のような印象に残ることばがあった。

「過去は泣き続けている―たいていの日本人がきちんと振り返ってくれないので
   過去ときちんと向き合うと、未来にかかる夢が見えてくる
   いつまでも過去を軽んじていると、やがて未来から軽んじられる
   過去は訴えつづけている
   東京裁判は不都合なものすべて被告人に押しつけて、お上と国民が一緒になって無罪地帯へ逃走するための儀式だった」

   恋人を戦争で失った長女の台詞に重ねると、先の戦争に真摯に向き合い答えを出そうとした井上の心情が伝わってくる。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2010年7月7日放送「『記録せよ 記憶せよ』~井上ひさしの言葉~」)

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