野球賭博問題で日本相撲協会は28日、力士・親方の懲戒処分・謹慎など特別調査委の勧告を受け入れ、7月11日からの名古屋場所開催を決めた。親方と大関の『解雇・除名』、10人以上の力士の欠場という異常事態である。なぜ闇社会との関係を断ち切れないのかーー。
部屋という閉じられた世界
数年前まで賭博を仲介していたという男が手口をしゃべった。使われるのは携帯電話。これで賭けのハンディを伝え、賭けを受ける。
「巨人50万円とか中日100万円とか」
見せたメモには、有名力士の名前もあって、日にち、金額も記録されていた。「相撲の人たちは金に対する価値観が違うので、いい客だった」
今回、もっとも多く10人もの関与者を出した阿武松部屋の元力士、片山伸次氏が体験を語った。十両昇進のあと、先輩力士から誘われたという。幕下は給与はゼロだが、十両になると毎月100万円くらいの給与と懸賞金、報奨金、ご祝儀などが入るようになる。
「パチンコやるくらいの気持ちだった。外へ出ると、成りはでかいしチョンマゲだから目立つ。それで部屋にいることが多い。そこで花札もやるし、金の感覚がマヒしてずるずると金額も大きくなった。いま考えると、とんでもないものに金をつぎこんでいた」
相撲部屋という閉じられた世界が、悪の温床になっていた。が、部屋は親方の所有物、個人財産で、協会も深くは立ち入れない。また、その相撲界の構造が脆弱になって、暴力団が付け入るスキを与えたという構図が浮かび上がる。
伝統支える制度が疲労
いま相撲協会には1000人、51の部屋がある。年6場所の興行と力士の給与に年間100億円が必要だ。部屋の運営費としては、給与・手当は協会からの分配金があるが、設備投資や力士の化粧回しなどは、部屋が独自に確保しないといけない。ここでタニマチが大きな役割を果たす。これが伝統だった。
ところが近年、相撲人気のかげりでタニマチが減って、部屋運営が苦しくなると、付き合う人を選んでいられなくなる。ここに暴力団介在の余地が生まれるのだと支援者はいう。暴力団は有名力士との付き合いが看板になる。
暴力団の手は興行にも及んだ。昨年の名古屋場所で、本来、高額寄付者しか入れないはずの維持員席に暴力団幹部が入っていた。暴力団と知らずにチケットを流した親方が処分されたが、ほかにも茶屋(相撲案内所)が維持員が手放した名義を譲り受け、それを転売していたこともわかった。
中島隆信慶大教授は「ひとことでいうと制度疲労だ。伝統文化を支えてきた維持員もタニマチも茶屋も、根底で支えきれなくなった」という。
名古屋場所は開かれることになったが、スポンサーの撤退もいわれ、客もどれだけ来るか。国谷裕子キャスターは「NHKも中継するかどうか、これから判断する」という。
中島教授はこう解説した。
「収益事業ではなく、伝統文化の継承のためにも開いたほうがいい。ただ、現状からは年6場所は多すぎないか、部屋が多すぎないか、適性規模を考える必要がある」
協会と部屋との関係も見直さざるを得ないだろう。どれをとっても、「ごっつぁん文化」の終わりを指している。三役を外国人力士が占めるのは、原因なのか、結果なのか。関係者にとことん苦しんでもらはないといけないようだ。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2010年6月28日放送「大相撲『存亡の危機』)