宮崎の家畜伝染病「口蹄疫」は、50日たったいまも感染が広がっている。処分対象の牛、豚は18万頭に達した。なぜ、かくも大規模に拡大したのか。初動の遅れは確かだが、もうひとつ重要な抜け落ちがあった。
1時間の遅れも許されない
最初の異常発見は4月9日。農家から獣医師に「熱があって、よだれをたらしてる牛がいる」という電話だった。獣医師が診ると、口と舌に小さな皮膚のはがれがあったが、口蹄疫に典型の水泡がない。県の家畜保健衛生所に報告し、職員が診たが、これも口蹄疫とは判断しなかった。
16日に別の2頭に同じ症状が出た。が、このときも「違う」という診断。宮崎では10年前にも口蹄疫が出たが、今回は1週間で2例だというので、違うと思ったのだ。
衛生所は17日から3日間かけて、他の病気の検査をしたがシロ。19日になって検体を動物衛生研究所(東京・小平)へ送った。日本で唯一の検査機関だ。そして翌日、口蹄疫と判明されたのだった。最初の報告から11日目。「1時間の遅れも許されない」(イギリス)という口蹄疫の封じ込めには、絶望的な遅れだった。
問題は衛生所や獣医師ではない。封じ込めのシステムがなかったのだ。国の対応指針には、農家と獣医師が衛生所に報告、疑わしい場合は検体を動物衛生研に送るとなっていた。疑わしいと判断しなければ、それっきり。結果的に衛生研に責任を負わせている。
家畜の処分も迅速にはいかなかった。処分は原則農家が行い、県がそれを支援する。県は職員を派遣したが、家畜の扱いに不慣れで、予想以上に時間がかかった。28日になって農水省も専門家会議を開いたが、まとめはなんと「迅速かつ適切に措置が行われている」だった。この間に感染は史上最悪になっていた。
農家が直接国に通報し直ちに補償査定
口蹄疫はこの10年アジア全域に及んで、台湾、中国、韓国も発生国だ。専門家は「いつ日本で大量発生してもおかしくない状況にあった」という。にもかかわらず、農水省は危機管理ができていなかった。
2001年に世界最悪の感染があったイギリスも、初動が遅れた。農家からの通報が遅れ、地方と国との連携もうまくいかず、結果1645万頭もが処分され、被害は1兆4000億円にのぼった。
これでイギリスは対策システムをつくった。口蹄疫は「国家の危機」と位置づけて国が直接やる。周辺国での発生も警戒。農家は直接、国に通報する。環境・食料・農村地域省(DEFRA)が統括し、発生と同時に首相のもとに中央危機管理委員会が作られる。テロ対策と同じ態勢だ。
これが、07年の発生時に生きた。午後5時に農家から「1頭がおかしい」と一報。翌午前6時に獣医師が検診、2時間後に検体分析。正午の口蹄疫確定と同時に、全国の家畜の移動禁止。並行して処分が開始され、発見から1日で、この農場の牛60頭全部が処分された。
この時は、周辺の農場の感染していない牛なども処分されている。これを可能にしたのが補償制度だ。査定の専門家を置き、費用は全額国がみている。補償がないと、完全な封じ込めはできない。
NHK科学文化部の松永道隆記者は、「今回は特別措置法で補償をみたが、確たるシステム構築のためにも、宮崎のケースを十分に検証する必要がある」という。
人のやることには必ず抜け落ちがある。マニュアルやシステムが必要なのはそのためだ。今回の教訓をしっかりと生かしてほしい。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2010年6月7日放送「検証・口てい疫」)