「みんなのうた」でおなじみ 風の画家・中島潔 ふすま絵に描かれたいっぱいの「いのち」

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   京都の清水寺で4月、46枚のふすま絵が公開された。描いたのは中島潔(67)。独特の童画で知られ、「風の画家」ともよばれる日本画壇の異才だ。伝統絵画とは異質のふすま絵が、1200年の古刹になぜ? 

画集30万部を数える画壇の異才

   中島は「画家人生50年の集大成」という。46枚は童画、物語などいくつかのテーマに分かれているが、白眉は8枚組の「大漁」である。何百というイワシがふすま8面いっぱいにうねり、光を目指している絵柄。他のテーマともまったく異質だ。

   キャスターの国谷裕子が熱海のアトリエに中島を訪ねて、この絵の制作意図を聞いた。中島は「今までの人生を凝縮した世界。しばらく立ち入りたくない、描きたくない」という。しかし、描かないと後悔するという思いで、5年をかけたのだと。

   中島は旧満州の生まれ。戦後、佐賀の炭坑の町に移り住んだが、18歳のとき、母ウメ子さんをガンで亡くす。2か月後、父が再婚したためふるさとを捨てた。働きながら絵を独学。食べるために必死に描いた。どの流派にも属さない独特の画風は、こうして生まれた。

   彼の描く少女たちは、どこか寂しげで物憂い。たたずむのは、失われたふるさとの光景のなかだ。しかし中島は、「故郷は心をそむけるもの、心の隅にうずく傷のようでした」という。「逃げることが母への愛情で、死んだことで絵描きになれた。父は許せなかった」

   その画風から「やさしい、いい人と思われるが、違う。それが原動力だった」。39歳で初の個展と遅咲きだったが、いまや世界でも評価が高い。画集は30万部を数える。

「やっとボクの『大漁』が描けた」

   テーマ「大漁」は、童謡詩人金子みすゞの詩「大漁」との出会いから生まれた。イワシの大漁を詠ったわずか10行の短い詩だが、その最後の4行、「海の中では 何万の 鰮のとむらい するだろう」に衝撃を受けた。

   2000年から「大漁」の連作を始めた。テーマは「死の淵へと向かうイワシの大群」である。作品を重ねるほど、イワシの死が強調された。第3作は、死に行くイワシの群に背を向けた少女が、悲しげにたたずんでいる。これは、海外でも高く評価された。

   しかし中島は、「描ききれなかった。ボクの思い入れが強くて、イワシを悲しみの中にだけ置いてしまった」という。今回の屏風では、生命の力強さ、すさまじさ、輝きを描きたいと思ったのだという。

   その制作過程をカメラが追っていた。今度の少女は、イワシに向き合っている。イワシに鮮やかな赤を加えて「命を吹き込む」。何百というイワシに目を入れていく。1匹1匹……。最後に、群の先頭のイワシに目を入れた。「少しやさしい、温和な顔になったかな」とつぶやいた。

「前回までは金子みすゞの『大漁』、今回はボクの『大漁』です」と中島は言う。「あの目のなかに、故郷を出て以来、感じてきた思いをすべて収めた」

   国谷が「『温和な顔』はお母さん?」ときいた。

「母親であってほしいですね。母親のところへいってくれれば、銀色の目をして……。一番の後悔は、母親にお礼をいえなかったこと。(清水寺は)仏さまの場所なんですよね。だから功徳になるかな」

   中島の絵は、NHKみんなのうたでもおなじみだ。が、少女たちの物憂げな、独特の暗さが気になっていた。そんな秘密があったとは。ただのノスタルジーでは、あの「イワシ」は描けまい。現物を見たくなった。

ヤンヤン

*NHKクローズアップ現代(2010年5月31日放送「風の画家・中島潔『いのち』を描く」)

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