「みんなのうた」でおなじみ 風の画家・中島潔 ふすま絵に描かれたいっぱいの「いのち」

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「やっとボクの『大漁』が描けた」

   テーマ「大漁」は、童謡詩人金子みすゞの詩「大漁」との出会いから生まれた。イワシの大漁を詠ったわずか10行の短い詩だが、その最後の4行、「海の中では 何万の 鰮のとむらい するだろう」に衝撃を受けた。

   2000年から「大漁」の連作を始めた。テーマは「死の淵へと向かうイワシの大群」である。作品を重ねるほど、イワシの死が強調された。第3作は、死に行くイワシの群に背を向けた少女が、悲しげにたたずんでいる。これは、海外でも高く評価された。

   しかし中島は、「描ききれなかった。ボクの思い入れが強くて、イワシを悲しみの中にだけ置いてしまった」という。今回の屏風では、生命の力強さ、すさまじさ、輝きを描きたいと思ったのだという。

   その制作過程をカメラが追っていた。今度の少女は、イワシに向き合っている。イワシに鮮やかな赤を加えて「命を吹き込む」。何百というイワシに目を入れていく。1匹1匹……。最後に、群の先頭のイワシに目を入れた。「少しやさしい、温和な顔になったかな」とつぶやいた。

「前回までは金子みすゞの『大漁』、今回はボクの『大漁』です」と中島は言う。「あの目のなかに、故郷を出て以来、感じてきた思いをすべて収めた」

   国谷が「『温和な顔』はお母さん?」ときいた。

「母親であってほしいですね。母親のところへいってくれれば、銀色の目をして……。一番の後悔は、母親にお礼をいえなかったこと。(清水寺は)仏さまの場所なんですよね。だから功徳になるかな」

   中島の絵は、NHKみんなのうたでもおなじみだ。が、少女たちの物憂げな、独特の暗さが気になっていた。そんな秘密があったとは。ただのノスタルジーでは、あの「イワシ」は描けまい。現物を見たくなった。

ヤンヤン

*NHKクローズアップ現代(2010年5月31日放送「風の画家・中島潔『いのち』を描く」)

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