番組の冒頭、キャスターの国谷裕子がめずらしく「弱音」を吐いた。「女性をとりまく環境は複雑、生き方も多様になる中で、それをファッションという切り口で探ろうというのは並大抵でないのは、重々承知しておりますけれども、今夜はあえてトライしてまいります」。現在、アラサー世代を中心に一大ブームとなっている「大人かわいい」ファッションの潮流を探るというのである。
雑誌「sweet」が火付け役
番組はまず、国内最大級のファッションショー「東京ガールズコレクション」の模様を流す。20代の人気モデルたちにまじって、平子理沙(39)、梨花(36)ら30代モデルが、花柄のワンピース、ミニスカートという「かわいさ」丸出しスタイルで登場する。ひときわ大きな歓声を浴びるのが、頭のリボンが目立つ吉川ひなの(30)。「大人かわいい」ブームの象徴的存在だという。
番組は雑誌「sweet」がブームの火付け役と見ているようだ。3年ほど前、「sweet」は当時全盛の「モテ」系に目をつぶり、「大人かわいい」をコンセプトに押し出す。編集長はこう述べる。
「なぜ、男の人の目を意識して、モテるためにお金を使わなければいけないんだろう。社会的に許される範囲であれば、好きな時に好きな服を着ればいい。年齢もシチュエーションも関係なく……ということを意識してやっている」
そして、積極的に起用したモデルがひなのだった。この路線があたり、出版不況下で部数を伸ばし、ことし(2010年)2月には実売100万部を超えた。
ひなのは「『大人かわいい』女性は、勝手にできあがったルールを壊していく大人の女の子たち。年をとったらミニスカートをはくななんて、なんでエラそうに言われなくちゃいけないの。50になってもおリボンつけます。ミニスカートもはきます」と笑顔で言う。
ひなの「50になってもおリボンつけます」
スタジオゲストの田中理恵子(東京工業大学世界文明センターフェロー/社会学)は、年齢、ライフステージに合わせた洋服を着るべしといった年齢のしばりが強い日本で、ひなのは「自分の着こなしでそれを批判して見せて多くの女性を勇気づけた」と評価する。
田中はまた、仕事がない、結婚できない不安が高まっているなかで、「かわいい」が女性にとっては共感ツールとしてのことばの意味合いが強く、小集団におけるコミュニケーションを発生させているとして、それが安心への回路となっていると指摘する。
これに対して、国谷が「人生をあきらめてファッションに逃げ込んでいることにならないか」と問うと、田中は「年齢、階層、性別をも超えて、アイデンティティを撹乱(かくらん)することが、新しいものを生み出すファッションの原動力になっている」と強く否定した。
ゲストとのかみ合わないやりとりを聞いていて、今夜(5月13日)のテーマに国谷はあまり乗り気でなかったのでは、という感じがした。それが冒頭の「弱音」発言に現れたような気がする。少なくとも、この人が「大人かわいい」を身につけることはあるまい。